「韓国ケミ号」がイラン革命防衛隊に拿捕された事件以降、韓国の2つの銀行に凍結されているイランの原油代金約70億ドルと、韓国の銀行に預けられているイランのメラット銀行の支払準備金約20億ドルに注目が集まっている。
米国のトランプ政権による対イラン制裁で、各国の金融機関に凍結されたイランの原油決済代金の中で、韓国に足止めされている金額が最も大きい。日本に凍結されたイラン資金は15億ドル規模だとロイター通信は報じた。中国内のイラン原油決済資金は200億ドルという報道もあるが、中国はイラン産原油を輸入し続け、貿易も行っているため、凍結状態の韓国とは状況が異なる。
なぜ韓国にはこれほど多くのイランの資金が凍結されているのか。逆説的に、米国の制裁以前にイランと韓国の貿易が非常に活発だったためだ。特に、イランの対アジア政策において、韓国は重要な位置にあった。1979年のイスラム革命以降、米国と対立するようになったイランは欧州諸国に近づく「西進政策」を進めた。しかし、1992年9月にドイツのベルリンでイラン系クルド人指導者が暗殺された「ミコノス事件」の背後としてイラン情報当局が疑われ、欧州諸国との関係が疎遠になった。イランはその後、アジア諸国との関係を強化する「東進政策」を展開したが、中でも韓国が重要なパートナーとなった。イラン人たちは「米国と緊密すぎる」日本には拒否感を示す一方、韓国には友好的だった。イランの主要銀行のメラット銀行はソウルに支店を置いているが、日本や中国には支店がない。欧州企業が撤退した人口8千万人を超える巨大イラン市場で、過去約10年間、韓国の製品は家電や自動車、化粧品、医療の分野などで最高の人気を博してきた。
2010年に米国のオバマ政権がイランの核開発を理由に「対イラン包括制裁法」( Comprehensive Iran Sanctions, Accountability and Divestment Act)を施行したことを受け、韓国とイランはウリィ銀行とIBK企業銀行にウォン建て口座を設けた。韓国がイラン産原油輸入代金をこの口座に預け、韓国企業がイランに輸出する物品の代金をこの資金から支払うシステムを作ったのだ。韓国のエネルギー関連企業各社が輸入するイラン産原油の代金が、韓国の対イラン輸出額より大きかったため、同口座の預金は増える一方だった。2018年にトランプ政権はイラン核合意(JCPOA)から一方的に脱退し、制裁を強化すると共に、2019年5月からはこのウォン建て決済口座に対する制裁免除の延長も米国が拒否した。当時、韓国外交部と米国国務省の交渉担当者の間では、制裁免除の延長に合意したが、トランプ大統領とポンペオ国務長官がこれを拒否したという。何の準備もなく70億ドルをイランに返す道が急に閉ざされてしまったのだ。
その後、韓国とイランの関係は急速に悪化した。一次的責任は米国のトランプ政権にある。米国の制裁に違反する場合の不利益を考えれば、韓国が金を返すことは難しかったかもしれない。しかし、イランを説得し、その後両国関係の修復を準備すべき韓国の外交も見えてこなかった。似たような立場の日本は2019年に安倍首相がイランを訪問し、イランのロウハニ大統領が日本を訪問する積極的な外交を行った。チェ・ジョンゴン外交部第1次官の10~12日のテヘラン訪問は、韓国政府高官としては実に4年ぶりだ。複雑に絡まってしまった事態を解決する多次元外交が切に求められる。