本文に移動

[コラム]ワクチンにも政治力が必要だ

登録:2020-12-24 02:55 修正:2020-12-24 12:24

 米国は新型コロナウイルスの最多感染国だ。同時にワクチン開発能力のある製薬会社とワクチン開発につぎ込む予算を持つ国だ。コロナによって政治的危機に直面したドナルド・トランプ米大統領が再選に成功する道は、ワクチンの開発しかなさそうに見えた。トランプは、タスクフォース(TF)の設置と予算投入を決め、責任者たちをせき立てながら、無理にワクチン開発を催促した。ワクチンの開発完了が発表されたのが大統領選の直後だったため再選には役立たなかったものの、とにかくトランプは選挙キャンペーンのあいだずっと「ワクチン政治」を繰り広げた。ジョー・バイデン次期大統領すら21日(現地時間)、「(トランプ)政府は『超高速作戦』を順調に実行に移すなど、ある程度の功労は認められるに値する」と述べ、他のことはともかく、ワクチン開発についてだけはトランプを高く評価した。

 バイデン自身もこの日、次期政権のトップとして、重要な「ワクチン政治」を繰り広げた。自らがコロナワクチンを接種する場面を「ショー」のように米全土に生中継したのだが、それを実行するだけの事情があった。専門家は「ワクチンの受け入れ度」を、政府と製薬会社に対する「信頼度」として説明する。ピュー・リサーチ・センターが6日に発表したところによると、白人(61%)、ヒスパニック(63%)、アジア系(83%)のワクチン受け入れ度はそれなりに高かったが、黒人は42%にとどまった。特に黒人のワクチンに対する拒否感は、政府自らが招いた「保健医療不信」のせいであるため、「ワクチンの安全性」を説得する政治力を発揮しなければならない。米公衆保健局(USPHS)は1932~72年の「タスキギー梅毒実験」によって黒人にトラウマを残した。保健当局は、アラバマ州タスキギーの黒人男性600人を対象として、梅毒を治療せずに放置した時に現れる症状を観察した。1947年からはペニシリンが安全な梅毒治療薬として使われていたが、当局は被験者にペニシリンを処方せず、単に観察のみを行った。彼らの何人かは死亡し、彼らの家族も感染している。

 米国では女性のワクチン接種の受け入れ度も低い。『ナショナル・ジオグラフィック』の3日の発表によると、男性の69%がコロナワクチンを接種すると答えたのに対し、女性は51%だった。ニューヨークのブランド戦略家アワ・マダウィ氏は『ガーディアン』に「女性の健康は主流医学でしばしば無視されてきており、女性疾患は男性疾患に比べてあまり研究されていないという傾向もある」と述べ、女性の保健当局と医療産業に対する信頼度が低い脈絡を指摘した。同氏は「勃起不全の男性は19%、月経前症候群の女性は90%いるが、勃起不全の研究の方が月経前症候群の研究より5倍多い」ことなどを例にあげた。さらに、米食品医薬品局(FDA)は、1993年までは臨床試験の際に女性を含めるように勧告してもいなかった。大義名分は女性の保護であったが、女性の疾患や女性に対する薬の効能、安全性に対する無関心が原因でもあった。

 米政府がコロナ最大の被害国かつ医療大国として、また国民の多くに保健医療不信を植え付けた歴史的過ちの継承者という特別な位置から、「ワクチンの開発と接種」を促す政治的責任があるとすれば、その他の国々はどうだろうか。防疫という目標は同じだろうが、パンデミックの状況や経済規模、ワクチンの受け入れ度などの状況によって、政府の役割や責任、それに伴う政策も異なるはずだ。

 韓国は、先制的なワクチン開発は難しいものの、国内総生産を基準とすると経済協力開発機構(OECD)において10位であり、ワクチン購買力はある。イプソスが10月に主要15カ国の成人1万8000人にワクチン接種の意思を尋ねたところ、韓国(83%)は、インド(87%)と中国(85%)に続き、「接種する」との答えが3番目に多いという積極性を示した。韓国は、コロナやワクチン陰謀論が蔓延しているフランス(54%)はもちろん、社会信頼水準の高いドイツ(69%)や日本(69%)よりもワクチンの受け入れ度が高い。

 韓国政府がワクチン確保を急がなかったことに対する批判が強い。大統領府は22日、「ワクチンの政治化を中止せよ」と反論したが、パンデミック時代においてワクチン以外の何が政治の対象となるのか疑問だ。パンデミックが短期間で好転する可能性は当初からなく、ワクチンの購買力もあり、ワクチンを接種したいという国民も絶対多数を占める。これまで防疫の成功に鼓舞されてきた政府としては悔しい面もあろうが、韓国のこうした条件を理解し、人員と予算を充てるとともに、総力戦のワクチン確保を詳しく伝え、国民の不安を解消する「ワクチン政治」を政府が率先して展開すべきだったのだ。

//ハンギョレ新聞社

チョン・ジョンユン|国際部長 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )

https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/975613.html韓国語原文入力:2020-12-23 16:45
訳D.K

関連記事