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大統領室が軍部のど真ん中にある異常な政権【コラム】=韓国

登録:2024-09-12 06:30 修正:2024-09-12 11:00
ソウル龍山にある国防部の建物に入居した大統領室の全景。大統領室が入居したことで正門に韓国大統領の象徴である鳳凰の模様が掲げられている。左側の建物は、国防部が移転した合同参謀本部庁舎=大統領室の写真記者団//ハンギョレ新聞社

 30年前、金泳三(キム・ヨンサム)大統領が青瓦台(大統領府)のすぐ隣の景福宮に駐屯していた首都防衛司令部第30警備団を解体しようとすると、軍将校が真夜中に大統領府状況室に電話をかけて脅迫したというエピソードは有名だ。第30警備団は映画『ソウルの春』で反乱軍首脳部が集まって軍兵力を運用した、まさにその部隊だ。金大統領は、景福宮の軍部隊が有事の際にクーデターに動員される可能性があり、たとえそうでなくても、常に大統領府を見守りながら圧迫するような雰囲気を誰よりも嫌っていたのだろう。

 大統領室が今、龍山(ヨンサン)の軍管轄地域に囲まれているからといって、クーデターを心配する人はあまりいない。ところが、直接的な兵力動員の危険はなくても、大統領室と軍首脳部が同じ場所に位置することで発生する心理的な影響は無視できない。軍部がクーデターで権力を掌握した状況ではないにもかかわらず、大統領と軍首脳部が一つの空間に定着したことは明らかに正常とは言えない。しかし、尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領と与党「国民の力」は戒厳令をめぐる議論を非難するだけで、大統領室と軍部の奇妙な同居をどのように解消すべきかについては何も考えていないようだ。

 ある元国防部高官はこのように語った。「国防部庁舎や長官公館での議長査閲をはじめとする軍の公式行事の回数が、大統領室移転後に大幅に減ったことは確実だ。大統領と同じ空間にいるのに、果たして国防部長官が活発な対内・対外活動をしようとするだろうか。国防部全体が大統領室の顔色を伺いながら、忠誠を誓う姿を見せるためにより一層努力せざるを得ない状況だ」。一方、長期的には軍部が大統領に影響を及ぼす可能性もある。

 大統領はすぐ隣の軍指揮官を信頼できる人々で埋めてこそ、心理的安定を得られる。軍部をうまく統制して指揮することが国政運営に非常に重要だという考えに陥る恐れがある。過去の軍事政権でも前例のない大統領警護処長の国防部長官任命は、文民大統領と軍部との適切な境界が揺らいでいる兆候とも言える。現政権で特定の高校出身者が軍情報機関を掌握しているとささやかれているのは、検察を権力基盤に活用したように、軍もそのようにしたがる大統領の性向のせいかもしれない。

 最近、国防部の秘密主義が幅を利かせているのも似たようなものといえる。7月28日、東京で韓米日防衛相は3カ国共同軍事演習と北朝鮮ミサイル情報の共有などを盛り込んだ「安保協力枠組み覚書(TSCF)」に署名した。当時、シン・ウォンシク長官(現大統領室国家安保室長)は「安保協力を不可逆的なものにするため」協力覚書を交わしたと述べた。国会国防委員会で祖国革新党のチョ・グク代表が「不可逆的な内容」とは何か、なぜ公開しないのか、少なくとも国会には報告しなければならないのではないかと問い詰めたが、シン長官は「3カ国の合意がない限り、公開できない」という答弁を繰り返すだけだった。「不可逆的な覚書」に署名したにもかかわらず、国会に説明しないのは三権分立原則を否定することであり、軍の秘密主義が度を越しているという象徴的な事例だ。

 李明博(イ・ミョンバク)大統領は、光化門(クァンファムン)でのろうそくデモの時、大統領府の裏山で「朝露」の合唱を聞きながら自責したと述べたことがある。軍の管轄地域に囲まれた尹大統領は、デモと集会から身の安全を守られていると感じるかもしれないが、そのような無感覚がむしろ政権の危機を深める可能性があることを自覚しなければならない。「時事IN」が最近公開した国家機関信頼度調査によると、大統領室の信頼度(10点満点で2.75)が国会の信頼度(3.38)より低いことが分かった。このような信頼度の逆転は初めてのことだ。「いくら出来の悪い大統領でも国会議員よりはましだ」という世間の通念が崩れたのは意味深長だ。すでに「心理的弾劾状態」と言われている理由がここにある。

 龍山の大統領室と与党は、「21世紀に戒厳令扇動なんてありえない」と主張する。大統領室のある関係者は「戒厳軍が出動した瞬間にインターネットでその光景がリアルタイム中継されるはずなのに、戒厳令なんてあり得ない」と主張する。しかし、時代が変わっても、大統領制の下で大統領と軍部の境界は必ず必要だ。軍が物理的な力をもとに民間政府を圧迫することがあってはならないが、大統領が私的な親交と忠誠心だけで軍の人事を左右することも同じく危険だ。

 考えてみると、このような疑念と物議は、元の大統領府である青瓦台ではただの一日でも過ごさないという、巫俗のほかには到底理由を推測できない拙速な大統領執務室の移転決定から始まった。「帝王的大統領なることを避けるため」大統領府を出た尹大統領は、いま軍部隊に囲まれ、前任者たちよりも民意からかけ離れた君主のように振る舞っている。

//ハンギョレ新聞社
パク・チャンス|大記者(お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/1158044.html韓国語原文入力: 2024-09-11 19:44
訳H.J

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