中国とインドの国境紛争は、中国がインドに「中心的安保を犠牲にしつつ、インド太平洋やアジア版NATOに参加できるのか」と問うものだ。インドが参加できない、幻に過ぎないアジア版NATOに、韓国が先頭を切るべきという話がなぜ出てくるのだろうか。
ソ連の侵攻に立ち向かうアフガニスタンのムジャヒディン闘争を支援したパキスタンのムハンマド・ジア=ウル=ハク元大統領は、「アフガンという土地は、常に適度に沸騰していなければならない」と述べた。最近の中国とインドの国境紛争、米国が推進するインド太平洋戦略の中で「アジア版NATO(北大西洋条約機構)」を理解する鍵となる言葉だ。ジアの言葉は、宿敵であるインドに向けたものだった。アフガンの紛争は、3国が国境を接するカシミール地域の情勢を流動化させ、インドに安保上の負担として作用するという意味だ。
インドとパキスタンはカシミールの地をめぐって戦争を繰り広げるなど、これまで紛争中にある。2008年11月の市街戦を彷彿とさせるインド・ムンバイへのテロ攻撃は、インドが占有するカシミール地域のムスリム解放を目標とするイスラム主義武装組織が展開したものだ。中国もカシミール領土紛争に関与している。中国とインドは1962年に戦争をし、最近では熾烈な肉薄戦に続き、45年ぶりに双方が火力を使用した。
先月31日、スティーブン・ビーガン米国務副長官は、インド太平洋戦略の主要4カ国である米国・日本・インド・オーストラリアの「クアッド」に加え、韓国なども参加する「クアッド+」による多国間安保協力機構の設立を提案した。韓国では、こうしたアジア版NATOに参加するという意思を先んじて明らかにしなければ「いじめ」に遭うという声が大きい。
インド太平洋戦略やアジア版NATOが成功するかどうかは、結局インドにかかっている。インドが米国などの西側と手を組んで反中の立場を確実にするかどうかに、だ。最近の国境紛争により、インドが「アジア版NATO」に同調する可能性が高いと主張されてもいる。
しかし、中国はなぜ自国を狙ったアジア版NATOまで取りざたされるこの時期に、インドを刺激するのだろうか。中国とインドの国境紛争は、中国の立場からすれば、インドの足を引っ張る行為だからだ。アフガン紛争を通じてインドに安保上の負担を負わせて牽制するのと同一線上にあるものだ。
昨年11月1日を期してインドは、カシミール領土紛争の中でインドが統治するジャム・カシミールから憲法で規定された自治州の地位を剥奪し、連邦直轄領土に編入した。この措置は、ジャム・カシミール州を紛争中の領土と規定した国連決議や、パキスタンおよび中国との二国間了解事項を破るものだ。パキスタンだけでなく、カシミールのムスリムたちが沸き立っている。
インドの地政学でいちばんの要衝は、カシミールなどの西北の辺境地帯だ。現在のインドをつくったアーリアンの侵略から始まり、アレクサンドロス、ティムールを経て、最後の王朝であるムガール帝国まで、すべてがこの地域を経てインド大陸に侵攻した。西北辺境地域とインドの安保は同義語だ。中国が国境紛争を激化させるなら、パキスタンだけでなく復帰するアフガンのタリバン政権も加わるだろう。
1962年、国境紛争の末、中国は電撃的に開戦し、インドは一方的に押された。焦ったインドのジャワハルラール・ネルー首相(当時)は、ジョン・ケネディ米大統領に支援を求めた。米国は、朝鮮戦争以来9年ぶりに再び中国との紛争に巻き込まれる負担に躊躇しつつ、アヴェレル・ハリマン国務次官補(東アジア・太平洋担当)を派遣した。ハリマンが到着すると、中国は一方的に停戦すると共に、占領地域から完全に撤退した。
当時の中国は、ソ連との関係が悪化する中、インドがソ連寄りになり、チベットのダライ・ラマ亡命政府を受け入れるなど、チベット問題に介入することに憤っていた。中国にとって、この地域の国境紛争は辺境の紛争にすぎないが、インドにとっては中心的な安保危機だ。最近の中国との国境紛争は、中国がインドに「西北地域の安全保障を犠牲にしつつ、インド太平洋やアジア版NATOに参加できるのか」と問うものだ。
実は、「インド太平洋」という言葉はインド海軍の将校が作った言葉だ。2000年代以降のインドの東方政策である「ルックイースト」政策をアップグレードした「アクトイースト(Act East)」の関連語だ。インドとマラッカ海峡の間のインド洋における影響力を拡大するため、米国との協力を求めるものだ。米国が意図する「反中国自由主義の国際秩序」をインド太平洋地域に拡大することはインドの関心事ではないというインド高位層の認識を、米国の地政学者ウォルター・ラッセル・ミードは『ウォール・ストリート・ジャーナル』で伝えている。いわゆる「はぐらかす勢力均衡策」だ。インド太平洋戦略をめぐる米国とインドの関係には、「すべて口先だけで、示してくれるものがない」というワシントンの「インド疲れ」があると、スティムソンセンターの南アジア局長サミール・ラルワニは指摘する。
結局、米国の言うインド太平洋戦略やアジア版NATOは、既存の同盟国をさらにまとめようというレトリックにすぎない。幻に過ぎないアジア版NATOに、韓国が先頭を切るべきという話がなぜ出てくるのだろうか。
チョン・ウィギル|国際ニュースチーム先任記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )