中産層の公共賃貸住宅は、住宅を買う物から住む場所へと、投機の対象から居住空間へと変える出発点となり得る。文在寅大統領は10日に「公共賃貸住宅を、低所得層だけでなく中産層まで含めて、誰もが住みたがる『質のよい一生の住み家』へと拡張する」と述べた。果敢に実行に移してほしい。
住宅需要は大きく3つに分けられる。いま住む家がどうしても必要だから買う「実需要」、儲けるために住みもしない家を買う「投機需要」、すぐに家を買う必要もないのに住宅価格がさらに上がるのではないかと不安だから買う「恐怖需要」、この3つだ。
韓国の住宅普及率、年間住宅供給量、人口増加傾向などを考慮すれば、住宅価格が上がる理由はない。いや、落ちてこそ正常だ。投機需要と恐怖需要のため、住宅市場で需要供給の原則が働かず、住宅価格の不安が周期的に繰り返されている。投機需要がまず住宅価格を不安定にし、ここに恐怖需要が加われば住宅価格は跳ね上がる。
住宅価格が高騰する時、家主が伝貰(チョンセ。契約時に賃貸人に一定額の保証金を預け、月々の家賃は発生しない不動産賃貸方式)保証金の法外な引き上げを要求する時、住宅を所有していない人は無理をしてでも住宅を購入すべきかどうか悩む。彼らの多くは、長期にわたって安定して居住できる良質の公共賃貸住宅があったなら、あえて家を買う理由はないと話す。適正な水準の保証金と家賃を払えば、引っ越しの心配もなく暮らせる公共賃貸住宅を望んでいるのだ。
京畿道が先月21日に発表した「基本住宅」が注目される理由がここにある。京畿道の公共住宅事業を主管する京畿住宅都市公社(GH)は、住宅非所有者なら誰でも、所得、資産、年齢と関係なしに、駅周辺のような好立地に30年以上住める良質の公共賃貸住宅を供給すると発表した。住宅を持たない中産層が望んでやまなかった住宅だ。京畿住宅都市公社は適正な賃貸料を世帯当たりの中位所得の20%以下と見ている。例えば、4人家族が専有面積74平米(供給面積30坪)に住む場合、家賃は57万3千ウォン(約5万1200円)、保証金は家賃の100倍の5700万ウォン(約509万円)程になる。
公共住宅特別法に基づき、1989年から供給の開始された公共賃貸住宅は、低所得層が供給対象となっている。住宅を持たない中産層は入居資格がない。京畿道は、公共住宅特別法の施行令を改正し、公共賃貸住宅に住宅を持たない中産層向けの新たな類型を追加しようという。住宅を所有していない中産層にとっては、住宅を購入するかしないか以外に、もう一つの選択肢ができたわけだ。恐怖需要が解消されるかもしれない。イ・ジェミョン京畿道知事は基本住宅の趣旨を「公共宅地の要地に安くて品質の良い中産層向けの公共賃貸住宅を大量に供給し、シンガポールのようにすべての国民が住宅を買わなくても住む所の心配なく暮らせるようにするもの」と説明した。
中産層の公共賃貸住宅が新たにできたからといって、低所得層の公共賃貸住宅の量が減るわけではない。低所得層の公共賃貸住宅は、公共住宅特別法施行令に則り、現在のように公共宅地に建設される全住宅量の35%が引き続き供給される。京畿道の構想は、残りの分譲住宅の物量(公共15%、民間50%)を公共賃貸住宅にしようというものだ。京畿道は第3期新都市5カ所のうち、京畿住宅都市公社が施行者として参加する河南市校山(ハナムシ・キョサン)地区、安山市章上(アンサンシ・チャンサン)地区、果川市(クァチョンシ)の3カ所の分譲物量のうち、京畿住宅都市公社の持分の50%以上を基本住宅として供給するという計画を立てた。全部で1万3000戸ほどの量だ。京畿道は、施行令の改正、主要地域である駅周辺エリアの容積率を500%へ引き上げ、住宅都市基金の融資利率を1%へ引き下げなどを政府に要請した。
京畿道だけに任せておくべきではないだろう。政府は韓国土地住宅公社(LH)と共に主導的に取り組むべきだ。第3期新都市に建設される住宅17万3000戸の中の、低所得層向け公共賃貸住宅に充てられる35%以外の物量のうち、相当部分を中産層向けの公共賃貸として供給する方策を積極的に進める必要がある。第3期新都市は、ソウルとの境界からの距離が平均で2キロと立地条件が良い。広域急行鉄道(GTX)を中心として広域交通網も構築される。政府は、すべての幼稚園を国公立とすると明らかにしている。中産層の公共賃貸住宅が成功しうる最適の条件が備わっている。
財源調達が最大の課題だが、住宅価格の不安によって韓国社会全体が支払う莫大な費用を考えれば、解決策を見出せないことはないと思う。複数住宅所有者と高価住宅所有者が納める保有税も財源として活用できるだろう。中産層と低所得層の公共賃貸住宅を一つのマンションで供給する「ソーシャルミックス」を精緻に行えば、公共賃貸住宅に対する社会的偏見の解消にも役立つだろう。
政府の住宅政策は、投機抑制と供給拡大という従来の方式を踏襲することで、限界を露呈している。投機抑制は絶対に必要だ。しかし供給方式は、もう大胆に改善すべき時期に来ている。中産層の公共賃貸住宅は、住宅を買う物から住む場所へと、投機の対象から居住空間へと変える出発点となり得る。文在寅(ムン・ジェイン)大統領は10日に「公共賃貸住宅を、低所得層だけでなく中産層まで含めて、誰もが住みたがる『質のよい一生の住み家』へと拡張する」と述べた。果敢に実行に移してほしい。