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[コラム]進歩政権の方が国防費が多くなる理由

登録:2020-08-12 20:31 修正:2020-08-13 11:01

時代が変わったのに「安保においては保守より優位に立たなければならない」という強迫心理がいまだに進歩政権の足を引っ張っている。イ・ナギョン前首相も、ノ・ヨンミン大統領府秘書室長も、共に民主党のチョ・ジョンシク政策委議長も、「文在寅政権の方が国防費はさらに増えた」と誇らしげにいう。その隙に、戦略目標に合わず効果も不明なアイアンドームのような事業が入り込む。

国防部は10日、2021~2025年の国防中期計画を樹立したと明らかにした。北朝鮮の首都圏攻撃核心戦力である長射程砲を防ぐ「韓国型アイアンドーム」構築のための開発に着手するなど、迎撃能力の強化に重点を置いた=国防部提供/聯合ニュース

 北朝鮮の長射程砲迎撃のための韓国型アイアンドーム構築と軽空母導入。国防部は10日、国防中期計画の核心となる事業をこのように発表した。そのため、今後5年間の防衛力改善に100兆ウォン(約9兆円)など、合計300兆ウォン(約27兆円)の国防費が投入される。米中の新冷戦と日本の軍事大国化の動きの中で、韓国も「自主国防」を強化しなければならないということに異を唱える人はいない。しかし、途方もない国民の税金を投じる軍備強化は、実質的な成果に明らかにつながらなければならず、南北関係という特殊な状況を考慮しなければならない。ともすれば朝鮮半島の平和と軍縮という大きな軸と衝突する可能性があるからだ。

 イスラエルが開発したアイアンドームは、ヒズボラのような民兵隊レベルの勢力が断続的に撃つロケットや砲弾の攻撃を防ぐ迎撃システムだ。休戦ライン付近に配備された北朝鮮の長射程砲から毎分数百発発射される砲弾を防ぐのに効果があるのか、多くの専門家が首をかしげている。1983年、ロナルド・レーガン米大統領が発表した、大気圏外でソ連の核ミサイルを迎撃するという戦略防衛構想(SDI、別名スターウォーズ)は、「人類史上最も高価で最も非現実的な」軍事計画と言われた。首都を世宗(セジョン)市に移そうとしているのに、それでもソウル防御用のアイアンドームが必要なのかも疑問だ。

4日夜、ガザ地区から飛来するロケットを、イスラエルのアイアンドーム迎撃ミサイルが追撃している/AP・聯合ニュース

 より重要なのは、アイアンドームを核心となる事業として提示することで、現政権の掲げた国防戦略目標がこっそりと変えられたことだ。2018年12月、国防部が大統領府に報告した「国防改革2.0」のプランBは、その戦略目標を「北朝鮮の威嚇に対応」から「全方向からの遠距離威嚇に対応」へと修正した。ところが、今回の国防中期計画は再び「北朝鮮の短距離威嚇に対応」を主たる目標に設定した。もちろん2018年と今とでは南北関係の温度が異なる。しかし今、南北関係が冷え込んだからといって多額の予算を投じてアイアンドームを構築するならば、現政権における南北間の軍縮は後順位にされたと言われても仕方がない。

 国防中期計画は、文字どおり“計画”であり、すぐに予算投入にはつながらない。だが、国防部は大統領の決裁を受けた計画案に基づいて企画財政部を圧迫するだろうし、2022年の大統領選の日程を考えれば、与野党ともに国防費の増額に消極的な態度は取れない。2017年の大統領選の候補者討論で、文在寅候補とユ・スンミン候補が、どちらが国防費の増額により積極的だったかをめぐり舌戦を繰り広げたことがある。ユ・スンミン候補が「私が国会国防委員長だった時、誰よりも国防予算を多く投じた」と言うと、文在寅候補は「李明博(イ・ミョンバク)政権や朴槿恵(パク・クネ)政権の時より、盧武鉉(ノ・ムヒョン)政権の時の国防費増加率の方が高い」と反論した。実際、保守政権より進歩政権の方が国防費は大きく増えている。盧武鉉政権時代の国防費は年平均8.9%増だったのに比べ、李明博政府は6.1%、朴槿恵政府は4.1%の増加だった。文在寅政権の過去3年間の国防費増加率は約7.5%で、やはり李明博政権や朴槿恵政権よりも高い。

 ここには「進歩政権では安保に不安がある」という保守の攻勢に対応しなければならず、そうしなければ選挙で勝てないという長期にわたるトラウマがあるようだ。時代が変わったのに「安保においては保守より優位に立たなければならない」という強迫心理は、いまだに進歩政権の足を引っ張っている。だからイ・ナギョン前首相も、ノ・ヨンミン大統領府秘書室長も、共に民主党のチョ・ジョンシク政策委議長も「文在寅政権の方が国防費が増えた」と誇らしげにいう。その隙に、戦略目標に合わず効果も不明なアイアンドームのような事業が入り込む。

 現政権の任期内に終えることにした戦時作戦統制権(戦作権)の移管は再び延期されるようだ。米国が「移管条件の検証」を理由にぐずぐずしているからだ。参与政府(盧武鉉政権)で戦時作戦統制権の移管を公式に提起したのがすでに15年前のことだ。その時は米国が韓国軍の力量を高く評価し、2009年には戦作権を引き渡すと言ったのに、今になって徹底した検証をするというのは理解しがたい。背景には米中の新冷戦があるという分析が有力だ。

 ことによるとアイアンドームが核心の防衛計画として提示されたことも、戦作権問題と無関係ではないかもしれない。作戦権を持つということは、すなわち「自分の意志で国防目標を設定し、それに合わせて資源を配置する」という強い使命感を意味する。受動的な体制に慣れてしまうと、中長期的にはどんな武器システムが韓国軍の未来に合うのかを創意的に判断できなくなる。このような理由から、戦略目標や実効性に疑問のあるアイアンドームのような事業が国防計画の看板事業として登場するのだろう。

 再来年の春になれば再び大統領選の時期がくる。その時は「効果が不明な国防費を減らし、国民の医療・福祉サービスを改善する」と自信をもって語る大統領候補を見ることができるだろうか。

//ハンギョレ新聞社

パク・チャンス先任論説委員 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )

https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/957501.html韓国語原文入力:2020-08-12 15:17
訳J.S

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