懸命に働いて給料をもらっているあなたは、政府が税金を取っていくのが嫌だろう。そのため、政府も税金を引き上げることには極めて慎重だ。そのような政府が所得10億ウォン(約8810万円)以上の人の所得税の最高税率を42％から45％に引き上げることを含めた税法改正案を出した。歳入基盤を弱める減税措置も含まれているが、いずれにせよ所得基準で上位0.05％、1万1000人が対象となるピンセット増税だ。
これに対して、今や先進国の中でも所得税が高い方だと批判する声が大きい。伝家の宝刀のような批判は、高い税金が懸命に働く意欲を削ぎ、経済に悪影響を及ぼすというものだ。
しかし、その程度の税金で経済活動が阻害されるという証拠は少ない。最近の経済学研究では、最高所得区間の税収を最大化する最適の所得税最高税率を推定する。これは、税率が上がった時に、高所得者らが労働を減らしたり、脱税したりすることで、課税対象所得がどれだけ減るかを示す弾力性にかかっている。ノーベル経済学賞受賞者のダイヤモンド教授とカリフォルニア大学バークレー校のサエズ教授は、さまざまな研究に基づいて、全ての税金を含めた最適の最高税率は70％を超えるだろうと報告している。もちろん学界には論争が存在するが、高い所得税に反対する経済学的な根拠は薄い。
歴史的に見ると、米国の所得税の最高税率は第2次世界大戦以降1970年代まで70～90％と高く、80年代以降は保守政治が勢いを得て大きく下がった。しかし約束とは裏腹に、減税以降、成長は減速し、不平等は深刻化した。今や民主党の進歩的政治家たちは70％の所得税最高税率を公約に掲げている。韓国も1970年代末には70％、80年代にも55％に達していた。
もう一つの批判は、「金持ちはすでに税金を多く納めているのに、増税すれば負担がさらに重くなる」というものだ。あらゆる控除が存在するため、現実の所得税負担は総給与に占める実際に納める税金の割合である勤労所得税の実効税率で計算しなければならない。これは2017年の全納税者の平均が5.5％で、法定所得税率よりはるかに低く、国際的に見ても低い。平均所得の250％の高所得を得る層も経済協力開発機構(OECD)平均の半分の水準であり、平均所得階層は3分の1に過ぎない。
しかし、国内だけを考慮すれば、富裕層の所得税負担が相対的に大きいのは事実だ。2017年の労働所得基準上位0.1％集団は、平均総給与が約8億ウォン(約7050万円)で、平均労働所得税の実効税率は30.6％と高い。上位1％集団は平均総給与が約2億6千万ウォン(約2290万円)、平均実効税率が23.8％で、上位1％に入る境界の総給与は約1億5千万ウォン(約1320万円)、実効税率は16.3％だ。
一方、最上位を除けば、高所得層でさえ所得税は少なすぎる。上位10％の境界は総給与が約7400万ウォン(約652万円)だが、勤労所得税の実効税率は5.8％で、上位20％の境界は総給与が約5300万ウォン(約467万円)だが、実効税率はわずか3.4％だ。さらに下は所得税はほとんどかかっておらず、免税者の割合は2018年にも39％に達していた。
そのため、所得上位1％や10％が全所得税収に占める割合は、所得集中度を考慮しても、ほかの国々より高い。また、2017年の国内総生産に対する韓国の個人所得税の比は4.8％で、OECD平均の8.3％より大幅に低い。結局、「ガラスの財布」と言って税金を取られることに怒るものの、韓国人は年俸数億を稼ぐ人を除けば、所得税をあまり納めていないのだ。
新型コロナの衝撃が不平等を深めている中、所得税の最高税率引き上げは必要であり、経済にも悪影響は与えないだろう。実際にこの数年間、利子所得や配当所得のような総合所得の最上位への所得集中度が高まり、統合所得上位0.1％の所得が、中位所得者の60倍を超えているのが現状だ。しかし公平で正義ある課税のために重要なことは、上位20～30％の中上位層を含む、より多くの人々が所得税を今より多く負担することだ。租税財政研究院の研究は、上位とその下の区間の所得税を同時に引き上げた方が、不平等の改善と税収の増加によりいっそう効果的だと報告する。
不況の真っ只中では無理だろうが、景気が回復したら財政支出の増加と所得の再分配に向けて増税論議を始めなければならないだろう。税率の低い付加価値税引き上げの議論と共に、各種の控除を減らし、最上位のみならず、中上位層の所得税実効税率を高める努力が絶対に必要だ。問題は、これを主張する政治がどこにも見当たらないということだ。
イ・ガングク｜立命館大学経済学部教授 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
訳D.K
