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[寄稿]韓国版ニューディールに投げかける質問

登録:2020-05-06 00:08 修正:2020-05-06 07:36

 政府は、経済危機を乗り越えてポストコロナ時代の革新成長を準備するための計画を韓国版ニューディールと名付けた。量的緩和がそうであるように、「韓国版」が付くとなぜか胡散臭くもあるが、大恐慌を乗り越えたニューディールを取り上げるのは理解できる。

 しかし、ニューディールは単に政府が財政を用いて雇用を生み出して経済を活かした努力だけではない。土木工事の効果はさほど大きくなく、一貫した財政拡張にも限界があったとの批判が提起されている。ニューディールは、制御不能になった市場資本主義の崩壊を国家の介入で克服し、既得権に対抗して権力関係と不平等な経済を改革した新しい契約だった。1935年のワグナー法は、団結と団体交渉など労働者の基本権を保証して最低賃金制を取り入れ、労働者の交渉力を強化した。また社会保障法は、雇用保険や年金などの社会のセーフティーネットを確立し、ルーズベルトは富裕層に対する最高所得税率も引き上げた。

 韓国版ニューディールに投げかけねばならない質問も、経済の大転換のためのどのような青写真と意志があるのかだ。まず、脆弱な労働者を保護して彼らの力を強化するための努力について尋ねてみよう。伝染病の被害は立派に防いだが、産業災害で今日も誰かは命を失い、不況はすでに不平等に繋がっている。3月の事業体労働力調査によれば、22万5000人の従事者が減少したが、主に飲食業と小売業など低賃金サービス労働者が仕事を失った。また正規職に比べて不安定な非正規職の所得がはるかに大きく減ったと報道された。

 政府も10兆ウォン(約8700億円)規模の雇用安定特別対策を提示し、零細自営業者と特別雇用労働者など雇用保険の死角地帯にいる人々に1兆5000億ウォン(約1300億円)の雇用安定支援金を支援することにした。しかし、雇用保険外の就業者が半分にもなる現実を考慮すれば、十分ではないだろう。最近、大統領府も話を切り出した全国民雇用保険や韓国型失業扶助のようなセーフティーネットの拡大のための努力が、韓国版ニューディールで行われなければならないだろう。政府は基幹産業安定基金を推進しながらも、企業を支援する場合は雇用維持を条件にするとしたが、産業銀行法改正案では曖昧な文言に変わり、懸念も提起されている。

 文在寅(ムン・ジェイン)政権は、労働組合組織率と団体協約適用率を高めて労働尊重社会を実現すると約束した。しかし、政府の労働政策は物足りなさが大きい。労働組合のない90%の労働者の権益を保護するための努力は不足しており、結社の自由を含む国際労働機関(ILO)の核心条約も批准しなかった。21世紀韓国版ニューディールは、非正規職と下請労働者、そして新たに現れる不安定な労働者の交渉力を強化する新しい契約に基づかなければならないだろう。

 次に、公共投資と国家事業の方向に関する質問だ。今後具体的な内容が作られるが、政府は先にデジタル経済の新産業育成案を提示した。しかし、遠隔医療などいくつかの新産業の投資促進のための規制緩和が、韓国版ニューディールの主な内容ではないことを信じる。デジタルと物的な社会基盤施設、公共医療などの社会サービス、そして起業家的国家の観点で、電気自動車などの未来産業に対する公共投資が行われなければならないだろう。米国が大恐慌を乗り越えて繁栄を遂げた際も、第二次世界大戦期に軍事部門とともに新技術部門で危険を甘受した積極的な公共投資が大きな役割を果たした。

 これに関連して、西欧で話題になっているグリーン・ニューディールは注目するに値する。グリーン・ニューディールは、2030年までに炭素排出を半分に減らすために、再生エネルギー中心の経済を作り出す大胆な計画だ。政府の大規模公共投資によりエコ産業と新しい雇用を作り出し、転換過程において労働者を支援して不平等を改善しようとする。パンデミック(感染病の世界的大流行)よりさらに大きな災いである気候変動と韓国の対応不足を考えれば、韓国版ニューディールもグリーンを志向しなければならないだろう。

 今まさに新型コロナ後の世界に関する議論が活発だ。災害の前では個人の利害より協力と共同体の大切さが強くなり、保健と経済の二重危機に対抗する一種の戦時状況は国家の役割を強化させうるため、新秩序を期待する人々もいる。しかし、グローバル金融危機以後もそうであったように、世界は大して変わらない可能性も高い。韓国で脆弱な労働者の力を強化して積極的な公共投資により、不況と不平等を乗り越えるニューディールが生まれることは可能だろうか。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)以後の世界の変化は、結局、危機を乗り越えるための政治的努力にかかっているだろう。韓国版ニューディールの未来も同じだ。

//ハンギョレ新聞社

イ・ガングク立命館大学経済学部教授(お問い合わせ japan@hani.co.kr )

https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/943585.html韓国語原文入力:2020-05-05 02:08
訳M.S

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