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[寄稿]日本沈没?

登録:2020-07-20 00:09 修正:2020-07-20 07:50

 1973年に小松左京というSF作家が『日本沈没』という小説を書いて、大ベストセラーとなった。第1次石油危機に見舞われて高度経済成長が突然止まった時代状況において、終末論が流行り、地殻変動によって日本列島がプレートの下に沈み込むという物語に、人々は飛びついた。小松は少年時代に戦争を体験し、国家と自分の関係を問うことを生涯のテーマとしていた。この作品は、日本という国がなくなった時に日本人はどう生きるかを想像するという、政治的な小説でもある。

 最近、別の本を読んでいて『日本沈没』が紹介されていて、私も久しぶりにこの小説が気になっていた。この十年、東日本大震災と原発事故、毎年のように続く大規模な台風と洪水、そして今回の新型コロナウィルスの蔓延。日本を様々なショックが襲い続け、犠牲者も出続けている。列島が崩れ落ちることはないが、我々が当たり前に存在していると思い、頼ってきた物的な基盤や社会的制度が沈没しつつあるのではないかという恐怖を感じる。この感覚は私一人のものではない。アニメ化された『日本沈没2020』がつい最近、Netflixで公開されたところである。

 自然災害や新型ウィルス自体は人間の力で防ぐことはできない。しかし、それにともなう犠牲や被害を小さくすることこそ政治の課題であり、この点に関する成功、失敗は国によって異なる。日本の場合、政治家は、対人口比の新型コロナウィルスの感染者は極めて少ないと自慢する。安倍晋三首相はこれを「日本モデル」と呼んだ。感染者数が少ないのは検査数自体が抑制されていたことの現れだし、対人口比の死者数は、日本は韓国、中国、台湾、ベトナムに劣っている。政治家の仕事は、空虚な自慢話をすることではなく、医療体制を整備し、困窮する人々への経済的支援を強化することである。

 7月に入り、感染者は急増している。特に、東京では連日200人以上の感染者が出ていた。小池百合子東京都知事は、「夜の街」での検査を拡大しているから感染者の発見も増えると説明しているが、保育園や病院での感染も広がっている。しかし、国と東京都の対応は鈍い。国は、感染対策よりも経済活動の拡大を優先している。7月22日から、旅行者の宿泊費や飲食費を補助する「GoToトラベルキャンペーン」を予定通り開始すると政府は発表した。そのための予算は、1兆7千億円である。日本の人口の3分の1が住む首都圏で感染が急増し、九州や岐阜県では集中豪雨が未曽有の被害をもたらしている最中に、のんびり旅行に行こうという気になれるものだろうか。観光地を抱える地方自治体の知事、市長もこのキャンペーンには疑問を呈している。新型コロナウィルス対策を担当する大臣は、感染拡大に気をつけて旅行に行ってほしいと述べた。滑稽と言うしかない。

 政府がのんきに旅行を進める一方で、医療の現場は崩壊寸前である。新型コロナウィルスの患者を引き受けた病院では、他の診療が制約され、収入が減少する一方、医師、看護師は労働強化で疲弊する。東京女子医大病院では、職員に夏のボーナスを支給しないことになり、400人もの看護師が退職を希望しているというニュースがあった。また、京都大学医学部附属病院では、新型コロナウィルスに対応した施設改修の費用をクラウドファンディングで集めると発表した。5月末、医療従事者に対する感謝を表明するために、航空自衛隊の曲技飛行隊が東京上空を飛んだ。感謝がそれで終わるなら、政府の偽善である。

 国は愚かな為政者によって沈没させられることがある。日本はまさにその瀬戸際である。日本では衆議院議員の任期があと1年余りとなり、安倍首相は自らの政治的指導力を保つためにこの秋に解散、総選挙を行うかもしれないという観測も流れている。選挙を行って、国民も政治家も沈没を防ぐためにどうすればよいか、真剣に議論した方がよいと思う。

//ハンギョレ新聞社

山口二郎・法政大学法学科教授(お問い合わせ japan@hani.co.kr )

https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/954254.html韓国語原文入力:2020-07-19 17:04
https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/954254.html

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