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[寄稿]新型コロナウィルスと日本政治

登録:2020-03-01 14:08 修正:2020-03-02 07:41

 東アジア各国は、新型コロナウィルスとの戦いで必死である。それぞれの政府は真剣に努力しているのだろうが、それにしても日韓両国の対応は対照的である。韓国では感染者数が急増しているが、それは韓国政府が症状のある人を検査し、感染者をなるべく正確に発見しようとしているからでもある。ウィルスに感染したことを本人も認識したうえで、レベルに応じて適切な治療を施し、新型肺炎を克服するというのが韓国政府の方針であろう。近く議会選挙があるため、国民の支持を得なければならないという事情があるにせよ、感染が最も拡大している大邱に赴き、陣頭指揮をするムンジェイン大統領の姿勢には指導者としての覚悟を感じる。

 日本政府の対策を見ていると、日本政治の大きな欠点が露呈されているように思える。その欠点とは、まとめて言えば次の2点である。事実を客観的に見ず、主観的な思い込みに基づいて行動する。結論が先にあってそれに見合うように現実の一部分を都合よく切り取り、国民にも真実を知らせない。これらの欠点は80年前に日本を誤った戦争に陥れ、戦後も公害や薬害事件で繰り返されてきた。そして、新型コロナウィルス対策でも繰り返されようとしている。

 クルーズ船の乗客にコロナウィルス感染が見つかった直後、船が横浜に寄港したとき、日本政府はこれを埠頭に留め置き、検疫を行うという対応を取った。日本は島国だから、「水際防御」が可能だという幻想を政治家や官僚は持っているようである。もちろん、中国からの1か月の観光客が90万人を超える時代に水際などという概念は無意味である。クルーズ船の留め置きは船内での感染拡大をもたらし、検疫後帰宅を許された人は公共交通機関で移動した。その中からも新たに感染が見つかっている。

 国内での感染拡大が明らかになると、政府も対策を発表した。韓国と対照的なのは、日本政府は感染者、あるいは感染の恐れのある人を発見することに対してきわめて消極的な点である。検査に必要なPCRという機器と人材は多くの大学や民間検査機関に存在している。厚生労働大臣は、ようやく2月18日からそれらの機材をフル稼働して、1日3800人の検査が可能になったと発表した。しかし、その後の国会審議の中で厚生労働大臣は一日の検査数が100件に達しておらず、地方自治体による検査数は把握していなと述べた。

 なぜ日本政府は感染者発見に消極的なのか。日本の官僚の病理である「プロクルステスのベッド」の思考法が問題を悪化させた。プロクルステスとはギリシャ神話に出てくる追剥で、旅人を捕らえて自宅のベッドに縛り付け、はみ出す手足を切断するという残虐な趣味を持っている。これは、人間は先入観や手持ちの資源に合わせて問題を都合よく切り取るという、認識が陥る罠を描く寓話である。今回は、狭いベッドに相当するのが政府の持つ治療の資源であり、旅人に当たるのはコロナウィルス感染者である。

 さらに、夏の東京オリンピックを予定通り開催するためには、世界に日本は危険でないことをアピールしなければならないという政治的な思惑も、現段階における感染者数を過小に公表することを促したと思われる。

 史上最長記録を更新している安倍晋三首相の下には、首相の誤りを指摘し、真実を見るよう進言する側近はいない。権力者の威令は臆病な部下には効き目があるが、ウィルスに対しては無力である。事実を隠蔽すれば、必ず後で手痛いしっぺ返しを受けると、私は恐れている。

//ハンギョレ新聞社

山口二郎・法政大学法学科教授(お問い合わせ japan@hani.co.kr )

https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/930557.html韓国語原文入力: 2020-03-01 18:49

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