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[寄稿]仁憲高校問題と教育の政治的中立性

登録:2019-11-21 09:19 修正:2022-06-03 07:46

 地球の環境危機は政治的な問題か? この問題の深刻さを世界に訴えるスウェーデンの16歳の女子生徒トゥーンベリは政治的な行動をしているのか? フェミニズムは政治的な問題か? 全国80カ所の中高等学校で起きた“スクールMeToo”は政治的な行動なのか? THAAD(高高度防衛ミサイル)の配置は政治的な問題か? 米国の在韓米軍防衛費分担金圧迫に対する批判は政治的な行動か? このような議題を授業時間に説明した教師は、政治的中立性に違反したのか? 最近、ソウルの仁憲高校で「反日」のスローガンを叫ばせたという教師に対し、一部のマスコミと保守団体の度を越した攻撃と当該教師の懲戒請願は、こうした古いテーマを再び韓国社会に投げかけた。

 教育基本法6条には「教育は…政治的・派党的または個人的な偏見を伝播するための方便として利用されてはならない」と明示されており、国家公務員法65条には公務員の政治活動禁止規定がある。政党法6条では「教育公務員の政党加入」を禁止するとされている。すなわち、教育は政治的に中立を守らなければならず、教師は政党加入や政治活動ができなくなっている。このような規定によって、朝鮮日報や中央日報などは仁憲高校について「政治偏向」教育、「思想注入」と集中的な攻撃をし、自由韓国党のナ・ギョンウォン院内代表も「仁憲高校で起こった事態は教育の破壊の危険な現況」とし、「全教組による教室の政治化、学校の政治化は蔓延した社会悪」「子どもたちを洗脳する政治的な教師の蛮行」だと攻撃した。

 ところが、当の仁憲高校の教師と生徒たちは集団討論を通じてこの問題を整理していっているが、むしろ外部から学校と教師を攻撃しており、デモ隊は学校を囲んで授業を妨害し、政界はこのように険悪な発言をしている。つまり、仁憲高校の事案を最も深刻に政治化しているのは、生徒と教師ではなく他ならぬ保守団体、マスコミ、政界だ。朴槿恵(パク・クネ)政府は国定歴史教科書への改定を強行し、教育部はTHAAD配置の正当性と安全性を擁護する国防部の文書をすべての学校の保護者、教師、生徒に案内することを市道教育庁に指示したことがある。だとすれば、一介の教師の発言と国家権力が動員された「THAAD」広報のうち、どちらが教育の中立性を深刻に損ねる行動なのか。

 韓国の憲法第31条で「教育の自主性・専門性・政治的中立性を保障する」と明示したのは、このような教師と学校の政治的動員を阻止するためのものであり、教師を政治的禁治産者にし、学校で政治社会的事案を論議のテーマにするなという内容ではない。教育基本法における教師の「政治活動禁止」条項は、教師が定めた政党や派閥の立場を教室で公然と宣伝してはならないという趣旨であり、教師が政治的争点をタブー視しなければならないということではない。

 仁憲高校で問題になった親日・反日問題は、当然学校で扱うべき事案だ。ただ、教師が生徒たちの討論と考えを引き出す形で進めなかったのは残念なことだった。すでに40年前にドイツのボイテルスバッハ合意で明示したように、問題になっている政治社会的事案は学校の中に持ち込むとしても生徒たちに注入してはならず、自由な討論を許さなければならない。学校で扱うすべての教科内容が政治社会的な関連性を持つテーマなのに、生徒の未来に影響を及ぼす国家と社会の極めて重要な事案を、授業の議題に上げるなということこそ、教育中立性の名で事実上教育を放棄せよと言っているようなものだ。

 すべての社会経済的問題は政治的だ。そして市民として、私たちはみな政治的な存在だ。したがって哲学、歴史観、政治的立場を持つなと言うことは、無条件に権力に服従せよという言葉と変わらない。日本帝国の植民地教育は「忠実・善良で勤勉な国民」を育てようという教育哲学によって暴力的な政治秩序に目をつぶれという最も“政治的な”方針であったし、朴正煕(パク・チョンヒ)時代の「勤勉、自助、協同」もまた維新独裁には目をつぶって家族と個人の福利にのみ気を使えという“政治”教育だった。

キム・ドンチュン 聖公会大学NGO大学院長 //ハンギョレ新聞社

 教育を支配の道具にしようとする人々は、教師と生徒が政治的に無脳児として残ることを望む。彼らの意識が目覚め、考えと哲学を持ち、権利意識が高まれば、既存の支配秩序が揺らぐと考えるためだ。そのため、かつての教育部の政治的指針は問題にならないが、一教師の授業中の発言にこのように国じゅうが騒いでいるのだ。

 むしろ今回の仁憲高校問題は、韓国で学校の民主市民教育、市民政治教育がいかに切実に必要かを悟らせた。学校に政治を許可し、教師に市民権を与えなければならない。それが教育の中立性を守る道だ。

キム・ドンチュン 聖公会大学NGO大学院長 (お問い合わせ japan@hani.co.kr)
http://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/917656.html韓国語原文入力:2019-11-20 09:30
訳C.M

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