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[寄稿]日本社会の深い悩み

山口二郎・法政大学法学科教授//ハンギョレ新聞社

 新天皇の即位の前後、国民をあげての騒ぎが続いたが、日本社会の病理は深刻である。5月28日、川崎市で51歳の男性が死者2人を含む20人の死傷者を出す犯罪を実行し、自らも自殺した。その事件の衝撃が冷めないうちに、6月1日に練馬区で76歳の父親、農林水産省の事務次官まで務めたエリートだった人物が44歳の息子を刺殺した。前者の事件に衝撃を受けた父親は、息子が近所の学校の運動会がうるさいと怒っていたので、息子がよその子供を殺す前に殺したと供述していると伝えられている。前者の事件の犯人、後者の事件の被害者はいずれもいわゆるニート(就学、就労、職業訓練のいずれも受けていない状態)であった。

 連続して起こった2つの事件は、凶暴な人物による突発的な犯罪と片づけるわけにはいかない。日本社会の統合の危機の兆候として、深刻に受け止めなければならない。

 今回の事件の犯人・被害者は1970年前後に生まれた。彼らが大学を卒業して社会に出たのは1990年代と思われる。この時代は、バブル経済が崩壊し、日本経済は長期的な停滞に陥った。とりわけ90年代後半は、アジア通貨危機や日本の金融危機の影響もあって、就職氷河期と言われた。さらに、この時代は雇用の規制緩和が始まり、伝統的な終身雇用の崩壊が始まった。それゆえ、低賃金、不安定な仕事に就くことを余儀なくされた人々が増加した。

 雇用の劣化と社会の衰弱は、合成の誤謬の典型例である。個々の企業は、生き残りを図り賃金コストを削減するために非正規雇用を増やした。しかし、安定した仕事に就けなかった若者は人生設計を立てることができず、家族を持つこともできなかった。この世代は戦後初めに生まれたベビーブーマー世代の子供の第2次ベビーブームの世代である。しかし、彼ら・彼女らが結婚・出産適齢期を迎えたはずの90年代には第3次ベビーブームは起こらなかった。そのために、日本の人口減少は加速された。個々の企業の非正規雇用拡大という合理的行動が社会全体で合わさると、社会の衰弱という大きな問題が起こったのである。

 合成の誤謬を是正するのは政治の役割である。しかし、過去30年間、日本政治は社会の構造的問題と向き合ってこなかった。企業が自己防衛のために賃金コストを削ることは当然という側面もある。しかし、雇用が不安定化することによって生じる社会的なひずみを放置することはできない。2009年に当時の民主党が政権を取った時、「居場所と出番のある社会」というスローガンを掲げて、社会統合の強化を目指した。しかし、この政権は短命に終わり、課題は残されたままである。

家族のモデルは、日本の保守政治家がとりわけ敏感に反応するテーマである。正社員が減少する中、男性のみが働いて妻子を養うという「日本型」家族モデルは崩壊した。しかし、男も女も働くという現実を支える社会的基盤、保育、教育、医療、介護などの制度は整備されないままである。保守的政治家の中には、性別分業モデルという神話を維持し、女性を男性に依存する立場にとどめておきたいと願う者が少なくない。

  私の友人の精神科医に訊いても、社会とのつながりが切れた人間が孤立感のあまり犯罪に走ることを直接防ぐ対策はない。教育、雇用などの政策を組み合わせ、人が社会に存在することの意味を実感できるような環境を整備することが、政治にできることである。川崎の事件の直後、有名なタレントがテレビで犯人について人間の「不良品」と表現し、人殺しをするなら不良品同士でやり合ってほしいと述べた。この種の優生思想は社会の分断を深刻化させるだけである。日本社会の統合が持続できるかどうか、危機的局面にある。共存、共生の日本社会を維持するための政策を論じることが急務である。

山口二郎・法政大学法学科教授(お問い合わせ japan@hani.co.kr )

韓国語原文入力: 2019-06-09 16:43

https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/897167.html

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