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[寄稿]国が壊れる時

山口二郎・法政大学法学科教授//ハンギョレ新聞社

 日本の国内で今大きな政治問題となっているのが、賃金に関する毎月勤労統計調査の不正である。大規模な会社については全数調査するはずだったが、厚生労働省の担当者はサンプル調査を続けてきて、賃金統計が不正確な状態が続いた。このため、失業保険給付などで過小な支払いが続いており、来年度予算の組み換えという異例な事態につながっている。

 昨年は、安倍晋三首相と親しかった人物が経営する学校法人に対して国有地を不当に値引きして譲渡した事件をめぐって、財務省が公文書を改竄していたことが明らかになった。また、財務省の幹部職員が国会で虚偽答弁をしていたことも明らかとなった。日本の行政は虚偽や捏造を容認するという点で、かつてないほど腐敗している。

 キリストの父母、ヨセフとマリアがベツレヘムに行ったのも、国勢調査のためだった。つまり、正確な統計を取ることは、民主主義以前の国家の土台である。経済分野の統計が不正確ではないかという疑念については、昨年11月に日銀が内閣府に対してGDPの元データを開示することを要求したころから、取りざたされていた。安倍政権が長期化する中で、高級官僚が自らの栄達や保身のために政権中枢のご機嫌を取るようになったという批判は、国有地不正売却が明るみに出たころから繰り返されてきた。2018年1月からは賃金の伸びが前年までの傾向から突出して拡大したことも、統計の操作の結果ではないかと指摘する声がある。安倍政権の経済政策、アベノミクスの成功を訴えるために統計データが恣意的に書き換えられているという疑惑は一層深まっている。

 ことほど左様に、日本は近代国家としての実質を失いつつある。内で腐食している政府は、外に対しては極めて活動的である。国内政策で実質的な成果を上げられない政府だからこそ、外に向かって国民のナショナリズム感情を煽るような行動をとる。自衛隊機に対する韓国海軍艦艇によるレーダー照射の件は、首相官邸が積極的に政治問題化した。昨年末には、日本は国際捕鯨委員会からの脱退を宣言した。これらの判断が日本の国益を増進しているとは思えない。しかし、決然たる姿勢を国内向けに誇示すれば、政府に対する支持は高まる。1月の各種世論調査では、内閣支持率は微増していた。根拠のない優越感や、利害を異にする国を侮蔑する姿勢が蔓延する現状は、国を挙げて戦争への道を転げ落ちた1930年代との類似を思わせる。私は、20世紀前半に活躍した小説家、永井荷風の日記を現代史の史料として愛読しているのだが、1931年の満州事変以後の日本の世相についての永井の記述が今と重なり合う。

 安倍首相は、1月22日、ロシアを訪問し、プーチン大統領と北方領土問題の解決に向けて協議した。しかし、両首脳の記者会見では、北方領土という言葉さえ使われなかった。要するに、話し合いを続けるという以外何の結論もない不毛な首脳会談であった。中国や韓国に対しては領土紛争に関して強硬な主張をする一方、ロシアに対しては主権を放棄するならば、もはや外交とは言えない。安倍首相の「やったふり」外交はもはや限界に達している。

山口二郎・法政大学法学科教授(お問い合わせ japan@hani.co.kr )

韓国語原文入力:2019-01-27 18:00

https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/880056.html

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