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[寄稿]最低賃金引き上げによる雇用ショックなのか?

登録:2018-05-21 22:30 修正:2018-05-22 10:55
イ・カングク立命館大経済学部教授//ハンギョレ新聞社

 最近3カ月間、韓国の就業者増加幅が前年同期比10万人台にとどまり、雇用状況を心配する声が高まっている。保守マスコミは、今年16.4%急騰した最低賃金による雇用ショックだとして、連日政府を批判している。文在寅(ムン・ジェイン)政府の経済、特に雇用の成績表は落第点だということだ。

 本当にそうだろうか。まず政府も指摘しているように、就業者増加幅の減少には人口要因を考慮しなければならない。今年に入って15歳以上の人口増加幅が大幅に減少し、15~64歳の生産可能人口は急速に減っている。生産可能人口は、昨年4月には前年同期比約3万9000人増えたが、今年4月には約6万6000人減った。もちろん、こうした人口変化を考慮しても、今年の就業者増加は昨年水準には及ばないが、2015年と2016年の同じ期間とは同等な水準だ。これは就業者数の増加という指標の限界を見せる。実際、雇用率や失業率の変化を見れば、最近になって雇用状況が大きく悪化したわけではない。

 それでは、今年の最低賃金引き上げは果たして雇用に悪影響を及ぼしたのだろうか。最低賃金の引き上げで大きな影響を受ける人々の最近の雇用減少は、最低賃金引き上げの影響を示しているように見える。例えば、宿泊・飲食業と卸小売業では、今年第1四半期に前年同期比で約9万8000人の就業者が減少し、4月も減少傾向が続いた。昨年下半期から15~24歳の就業者と販売従事者の就業者も減少している。

 しかし、これを最低賃金引き上げの直接的影響と解釈することには注意が必要だ。傾向を調べれば、宿泊・飲食業は中国観光客の急速な減少で2016年中盤以後から就業者数が減少しており、卸小売業も2017年初めから就業者数が減少傾向であるためだ。経済学の種々の実証研究は、景気変動効果や産業別傾向を統制してこそ、最低賃金引き上げの影響を確認できると指摘する。

 実際、このような方法と産業別データを用いた労働研究院の最近の分析によれば、今年3月まで最低賃金引き上げが雇用を減らしたという証拠はなかった。もちろん、この研究も労働時間の減少効果を報告し、今後さらに詳細な資料に基づいた研究が発展しなければならないだろう。

 一方、多くの人は最低賃金の急な引き上げが自営業に及ぼす悪影響を憂慮した。しかし、昨年末以後に雇用従業員がいる自営業就業者はむしろ増加し、卸小売業を中心に雇用従業員がいない自営業者は減少した。これは、最低賃金の引き上げより景気不振と過当競争を背景にした自営業の構造調整を反映するものと見られる。

 結局、現在の雇用状況がショックであったり最低賃金引き上げが雇用に明確に悪影響を及ぼしたと言うことは難しいだろう。事実、最低賃金の引き上げで低賃金の劣悪な働き口が減少しても、中長期的に消費が改善され、より良い働き口ができるならば望ましいことだ。したがって、最低賃金の引き上げは、賃金を高めて分配を改善し成長を促進する所得主導成長の核心的政策だ。

 だが、景気が大いによくないところに最低賃金の急な引き上げが続くならば、雇用全般に対する悪影響が現れることがありうるという点にも留意しなければならない。1年前、筆者が最低賃金の引き上げの速度を多少遅らせても社会セーフティネットの強化が必要だと書いたのは、そのためだ。これと共に、景気浮揚のための政府の積極的な財政拡張、そして不動産賃貸料の上昇抑制と価額上昇の抑制などで、最低賃金上昇の負担を皆が分かちあうための努力も必要だろう。何よりも最低賃金の効果に関し、真剣な分析と議論が発展して、来年の最低賃金決定に反映されることを期待する。

(お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/845608.html韓国語原文入力:2018-05-21 18:59
訳J.S

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