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[寄稿]「人に怪我はなかったか?」

登録:2018-01-03 21:16 修正:2018-01-04 09:14

 孔子は馬小屋に火事が起こったのを見て「人に怪我はなかったか?」と尋ねた。孔子が馬について尋ねなかった理由は、馬を貴重だと考えないからではなく、人が一番大切だと考えたためだ。黒人奴隷を殺しても問題にならなかった時期、アメリカのリンカーン大統領は「労働は資本に優先し、資本は労働の果実に過ぎない。労働が先に存在しなかったとすれば、資本は存在できなかったのであるから、労働がさらに尊重されなければならない」と話した。

 キム・スファン枢機卿は、朴正煕(パク・チョンヒ)大統領が教会がどうして労働問題に介入するのかと問い質すと、「物質は工場で価値ある商品になるが、この世で最も高貴な人間はそこで単なる廃品になります」と法王ピオ11世の「四十周年」を引用して答えた。

 しかし、開発独裁とその長い陰の中で発展の道を歩んできた韓国には、このような警句をあざ笑うことが数十年間繰り返されている。1970年代末、ある工場で労働者の手が機械に挟まって機械が止まった時、工場長が急いで駆け付けて来て「機械には異常がないか」と尋ねた。大金2億ウォンで導入した機械がまず気になったためだ。95年、三豊百貨店が崩壊し、数百人が下敷きになって亡くなっている時、事故を知りながら先に脱出したイ・ジュン社長は、警察に出頭して「崩壊するということは、お客さんにも被害が及ぶが私たちの財産も壊れることだ」と話した。

 韓国の職場や公共施設はほとんど“人”より“馬”を中心に設計されている。火災はいつどこでも起きることがある。馬小屋に火事が起こった場合、馬より人を危険に追い詰めるそのような建築物を作らせないようにして、馬だけを救出し人は死ぬにまかせておいた主人を処罰することは、今はすることができる。

 2009年の双龍(サンヨン)自動車ストライキと龍山惨事、2014年のセウォル号惨事、サムスン電子労働者の白血病死亡事件、そして昨年の提川(チェチョン)火災惨事による多くの人命被害の原因はほとんど同じだ。まさに資本を尊く思い、労働をいやしく思い、人の生命や安全より利潤を大切にする大企業の論理と威勢の前に公権力が簡単に崩れたためだ。毎年千名余りが労災で死亡し、数百人が過労死で死亡しても、その死の行進が続く理由は韓国で最も力がある勢力と公権力が人を先順位に置かなかったためだ。

 韓国を訪問したフランチスコ法王は「労働者を疎外させる非人間的な経済モデルは拒否しなければならない」と話したが、今日カトリック仁川教区が運営する聖母病院は労組をこっぴどく弾圧し、結局250人の組合員は10人しか残らず、労組の支部長である看護師イ・ウンジュさんは死亡した。“死の企業”という汚名を着た現代製鉄唐津(タンジン)工場では、2007年から2016年までに労災で亡くなった人は31人であったし、その大部分は下請け企業の労働者だった。親会社である現代の経営者は誰も処罰されなかった。1人の死亡者が発生する場合、30余件の事故があらかじめ起きるというが、今日韓国の大企業に蓄積された巨大な富は毎年数万人、数十万人の生命と健康のために支払われなければならない費用を支払わずに得られたものと言っても過言ではない。

 事実、韓国の職場や公共施設は、ほとんどが“人”より“馬”を中心に設計されている。火災はいつどこでも起きることがある。間接雇用された人、非正規職労働者、外国人労働者、そして下級事務職は、火事が起きれば最も直接的な被害者になるだろう。故イ・オドク先生が話したように「体で働きたいという子ども」を育てられない韓国の教育が変わらない限り、人の命よりお金を大切に思う企業家、政治家、宗教人、官僚がこの国家を動かすだろう。しかし、馬小屋に火事が起こった時、馬より人を危険に追い詰めるそのような建築物を作らせず、馬だけ救出して人は死ぬにまかせておいた主人を処罰することは、今はすることができる。

キム・ドンチュン聖公会大NGO大学院長、新たな百年研究院長//ハンギョレ新聞社

 文在寅(ムン・ジェイン)大統領は2012年の大統領選挙で「人が優先だ」というスローガンを掲げ、昨年には「労働尊重社会」を強調した。ところが、それが抽象的スローガンに終わらないようにするには、決然とした政治的実践と利害調整が伴わなければならない。奴隷解放宣言をしたリンカーンは命を失った。文在寅大統領にそうした危険まで覚悟しろということではなく、彼が言う“人”とは誰で、労働が尊重されないようにしている法と制度、その力と意識の実体は何なのか明確に定義して、国会と力を合わせてロードマップを提示しなければならないという話だ。

 2018年、「人が優先だ」が単なるスローガンでなく、政策、法、制度に具現されることを望む。韓国の職場は戦場であり、毎日多くの戦死者や負傷者が発生しているからだ。

キム・ドンチュン聖公会大NGO大学院長、新たな百年研究院長 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/826031.html韓国語原文入力:2018-01-02 23:45
訳J.S

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