本文に移動

[寄稿]メディア乱立する韓国の陰

登録:2016-06-27 02:03 修正:2016-06-27 07:45

 韓国のジャーナリストの数は人口2300人当たり1人で、世界最高レベルだ。フランスのジャーナリストの数は韓国の4分の1程度だというが、これは韓国の報道の自由や発展のレベルがフランスの4倍という意味だろうか。国会を担当するジャーナリストは1747人で、議員1人当たりの平均6人の割合だ。これまた、世界最高レベルであるが、これは韓国の政治や政治ジャーナリズムが世界最高レベルということなのか。経済的に採算が取れる線をはるかに越える報道機関が乱立している地域も多いが、これはそれほど韓国の地方自治が先進的であることを意味するのだろうか。

 誰もそうは思わないだろう。韓国はメディアと政治のレベルとは無関係に報道機関やジャーナリストが多い「メディア共和国」であり、これは長い歴史を誇る韓国の伝統だからだ。キム・ウルハンは『韓国新聞史話』(1975)で「蜂蜜の瓶に集まってくるハエのように、様々な種類の政治屋と不当に利益を得ようとする輩は、かつて先を争って新聞企業を運営しようとした」と記しているが、これは(朝鮮)戦争中にも同じだったという。だから「臨時首都だった釜山(プサン)では、町にも、喫茶店にもPRESS(新聞)と書いた腕章を腕に巻いた人でいっぱいだった」。

 それから世の中は大きく変わったものの、「腕章」の力への熱望はいまだ健在である。その熱望が世の中で生きていく上での知恵であり、真理であるのは、出世して多くを手に入れた者がさらに上を目指すために、さらに多くのものを手中に収めるために犯す様々な不正や「甲(カプ)チル」(優越者<甲>による横暴)が、洪水のように溢れている昨今の事態が証明している。彼らの醜態は、1890年代に朝鮮を4回も訪問していた英国の旅行家、イザベラ・ビショップが貪官汚吏を指して使った「免許を取った吸血鬼」という言葉を連想させる。

 非常に腹立たしいことではあるが、冷静に考えてみよう。吸血鬼は存在しない。いかなる不正と甲チルの主犯も直接人の血を吸うことはない。彼らは免許状や既得権を出世と蓄財の道具とする社会的なシステムと慣行に基づいて、周りに賛辞と羨望の対象となって生きてきただけで、そのような生活の文法をより積極的かつ熱心に守ってきただけだ。適当に守るのは大丈夫だが、徹底的に守るのは問題になるような文法を放置したまま、「過ぎたるは及ばざるが如し」という知恵を力説するだけでは何の解決にもならない。

 吸血鬼がいるとしたら、それはまさにそのようなシステムと慣行に対する感覚の麻痺だ。まさにここでメディアが問題になる。そのような麻痺は法と政策の対象というよりはコミュニケーションと公論の問題だからである。メディアの役割はより良いシステムを作るための法と政策を求めることだ。法と政策の領域に住む人々は、表に浮上した問題だけを取り上げるように求められ、訓練された人たちだからだ。

 ところが、メディアの繁栄が単なる「腕章」の力への熱望のためなら、コミュニケーションと公論は後回しにされてしまう。すべての法と政策の問題が、事故が起きた後に限って集中的な報道と論評の対象となる「後の祭りジャーナリズム」や「ハイエナジャーナリズム」では、決して世の仲を変えられないだけでなく、必要以上に韓国社会に対する不満を増幅させるだけだ。

 報道機関やジャーナリストの数が多いほど、報道と論評の多様性が実現されるならまだしも、韓国社会が置かれている現実はそのようなものではない。今メディアは画一性を追求する「そっくりになる競争」を繰り広げている。党派性を表すのには積極的だが、それさえも「私たち対彼ら」という決まり切った公式だけを繰り返すだけだ。「このままではいけない」という問題意識は誰もが持っているが、すぐ目の前に迫った、生き残らなければならないという危機意識に圧倒されてしまう。

カン・ジュンマン全北大新聞放送学科教授//ハンギョレ新聞社

 ところが、興味深いと同時に信じられないのは、この問題がただメディアだけの問題と見なされていることだ。労働問題は、政労使(政府・労働者・使用者)の共同の問題であることを当然視するのに、民主主義の基本的なメカニズムの問題をメディアだけの問題にするのはなぜなのか。社会的コミュニケーションとの公論に根本的な欠陥があるのに、国民と政府はその責任を免れるのか。

 メディアがいかなる革新を進めても、国民が何の価値判断もなくメディアを工業製品のように扱い、政府がメディアを統制の対象とする限りは、何も変わらない。マスコミの正常化なしには民主主義の正常化が不可能であるという認識から出発し、いわゆる言国政(言論・国民・政府)という相互関係の中でメディアの問題を捉えるべきだ。「免許を取った吸血鬼」の予防と撲滅のためにも、これから私たちは言国政について考え、話し合わなければならない。

カン・ジュンマン全北大新聞放送学科教授(お問い合わせ japan@hani.co.kr )

韓国語原文入力:2016-06-26 17:30

https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/749735.html 訳H.J

関連記事