1年前、社会主義者を自任するバーモント出身の74歳の上院議員が、米民主党大統領選挙候補の指名争いで強力な挑戦者になると考えた人は多くなかった。 驚くべきことに、バーニー・サンダース氏はヒラリー・クリントン前国務長官に苦しい戦いを強いた。 今ではクリントン氏が民主党の大統領候補にほとんど確実視されたが、サンダース氏は民主党の指名争いで進歩的な政治議題に対する(有権者の)支持の奥深さを見せつけた。
サンダース氏の多くの支持者は、クリントン氏が大統領候補として指名されることに失望しただろうが、しかしそれはあくまでも人物ではなく政治に関する争いだった。 そしてサンダース氏の選挙運動はいくつかの実質的な勝利をおさめたと見られる。 クリントン氏は選挙運動を始めた当初より現在は自らの立場を大きく左に移した。
最も注目を引いた出来事は、クリントン氏は今や環太平洋経済パートナーシップ協定(TPP)に反対していることだ。 事実、最近クリントン氏は11月の選挙後に生ずる議会のレイムダック会期にTPPを通過させようとする動きに反対し始めた。 態度を変えたのだ。 クリントン氏はオバマ政権の国務長官としてTPPを協定の模範だと称賛し、TPP交渉で大きな役割を果した。 一方のサンダース氏は強い反対論者であり、TPPは自由貿易ではなく企業の利益を保護するためのものだと主張した。 事実、TPP参加国の間には公式的な貿易障壁は存在したが、特許と知識財産権に対する保護の強化にともなう衝撃がTPPの関税縮小効果を相殺するように見える。 言い換えれば、TPPの真の意味は保護主義の強化に近い。
クリントン氏がサンダース氏に歩み寄った2つ目の領域は健康保険改革だ。 サンダース氏は65歳以上に適用される健康保険システムを全体に拡大する普遍的メディケアシステムを提案した。 反面、クリントン氏は55~60歳の特定の年齢層がメディケアシステムを購買できる案を提案した。 この提案は私的保険間の競争が少ない多くの地域で、良い保険の選択肢を提供する効果を直ちにもたらすだろう。 これはまたサンダース式の普遍的メディケアシステムへ進む道を提供する潜在力も持っている。 もしメディケアが55~65歳、そして60~65歳の人口領域で私的保険と成功裏に競争できるなら、さらに若い人の領域でもメディケアと私的保険を競争させられるのではないだろうか。年齢制限が最終的になくなるなら、メディケアは一層効率化され、遠くない将来に普遍的メディケアといったものに到達できるはずだ。
最後に、クリントン氏はサンダース氏が永らく主張してきた連邦準備制度理事会(連準)改革の理由も受け入れている。 クリントン氏は、各銀行が12ある連邦準備銀行の総裁指名を通じ、米国の通貨政策に直接口出ししてはならないと主張した。 クリントン氏はまた、連準が完全雇用のための努力を倍加する必要があると主張した。 また、連準の政策が少数者に対する影響により多くの注意を傾けるよう連準に少数者代表を増やすことを求めた。 これは非常に大きな出来事だ。 連準はインフレーションの恐怖を理由に金利を引き上げ、失業率を下げることを阻むことができる。 クリントン氏が大統領になって雇用と経済に対する巨大なプログラムを採択するとしても、連準は高金利で効果を弱めることができる。 連準をして最大限高い雇用水準を達成するために努力させることが重要だ。 クリントン氏も今ではこうした見解に同意しているようだ。
サンダース氏の成功がクリントン氏が左に動かす要因になったのか確実なことは言えない。 だが、その可能性が十分にあることは明らかだ。 そしてサンダース氏と彼の支持者は、クリントン氏の立場を変化させる上で功績を上げたと誇って良い。
ディーン・ベイカー米経済政策研究センター共同所長(お問い合わせ japan@hani.co.kr )