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[寄稿]政府発表だけ伝えるメディア 安保に不可欠なのは距離置きと事実の伝達

登録:2016-02-18 08:05 修正:2016-02-18 09:01

 開城(ケソン)工業団地閉鎖についてのKBS(韓国放送)の報道が「政府発表伝達」水準にとどまっていて非常にもどかしい。10日の発表以後、「ニュース 9」には憂慮や反対の声はほとんど見当たらない。あるとすれば、与野党の反応を扱うレポートで野党の主張を短く紹介する程度だ。過去数十年間の「主和論」から急に「主戦論」に旋回する国家の政策変化に対して憂慮や反対がないとすれば、それはおかしな事である。多様な意見を伝えてその意味を分析するのに能力的に限界があってなのか、でなければ政府のみが正しいと考えてなのか、政府だけを取材源にした単純報道が度を越している。

 「絶対に代償を払うようにさせるために、開城工団中断という超強力カードを抜いたわけです」、「先制的な制裁措置を通して国際社会の対北朝鮮制裁を導き出すという意志も込められました」。 このように取材源と距離を置くどころか、その意思まで推し量る「全知的作家視点」(?)も多い。「中国企業が北朝鮮と取り引きを絶つようにさせれば、北朝鮮に実質的な打撃を与えることができるのです」といった観察者ではないチアリーダーの役割もはばからない。今後北朝鮮で発生する「事態の余波」について主に報道し、関連企業など韓国側の被害についてはなおざりだ。「政府と国際社会はこの金が核実験とミサイル発射など天文学的費用を要する兵器開発にも流入したものと見ています」という主張の後、政府と「国際社会」がそのように見る根拠は提示しない。 (国際社会とは何を意味するのかもはっきりしない!) 「アメリカはもちろん、日本でもキム・ジョンウン政権交替論が頭をもたげています」という果敢な主張の後に、誰がどのようにこんな発言をしたのかがない。あまりにも安易にニュースを作っているという印象である。

 単に政府発表だけ要約してくれるのなら、貴重な社会資源である受信料と電波を使う公営放送まで敢えて出てくる必要はない。民間放送とは「明確に区別される」品質のために公営放送が存在する。重要な事態についての多様な意見と分析により社会的知恵が導出されるように助けることが、その役目である。危機的状況にあって「国論統一」は重要だ。 しかし生半可な主戦論や主和論は、ともすれば国を危険に陥らせる可能性がある。信頼性の高い情報と分析を土台に意思決定がなされるかどうかを、マスコミが監視せねばならない。

 イギリスの公営放送BBCは、戦時にも冷静な態度を失わないことで有名だ。 BBCは自国の政府や軍隊を「我が政府」とか「我が軍」とは呼ばない。その代わりに「英国政府」「英国軍」が 「これこれと主張した」というふうに言う。 1982年フォークランド戦争の時、ある記者は「英国政府の言葉を信じるならば」という言い方で話を展開した。 2003年イラク戦争の時、敵国の主張も必ず並列することに不満な国粋主義者たちはBBCが「バグダッド放送公社」(Baghdad Broadcasting Corporation)の略称であると言って非難もした。参戦の名分になった大量破壊兵器関連の政府報告書が誇張されていたと暴露した事で政府と葛藤をきたし、当の記者はもちろん理事長と社長まで辞任したことも有名だ。

カン・ヒョンチョル淑明女子大メディア学部教授//ハンギョレ新聞社

 「距離置き」と冷徹な事実関係の把握はむしろ国家安保の役に立つ。極度の社会的混乱状況においても最後まで信じることのできる自国のマスコミがあるならば、その社会は合理的選択を下す可能性が大きくなるであろう。不透明な状況であればあるほど、政府を含む取材源との距離置きに一層徹底するよう記者たちに願いたい。問題が起きた場合、後になって「取材源が言った事をそのまま伝えただけだ」と弁解したところで、歴史的責任を兔れることはできないだろう。

カン・ヒョンチョル淑明女子大メディア学部教授(お問い合わせ japan@hani.co.kr )

韓国語原文入力:2016-02-15 19:52

https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/730475.html 訳A.K

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