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[コラム]韓国の科学技術を支える「幽霊研究員」

登録:2016-02-12 23:23 修正:2016-02-13 07:54

 「私はいろいろ研究成果も上げている某大型病院の研究員です。研究員と言えば聞こえはいいのですが、事実上幽霊と変わりありません。 病院で仕事をしてはいるものの病院の職員ではなく、公式的には私がどこで働いて給与をもらっているのかも明らかでないので、幽霊と表現します」

 しばらく前、自らを幽霊のような存在として紹介した一人の非正規雇用の研究員から送られて来た短い電子メールは、こんな文章で始まっている。 深く話を交わすことはできなかったが、科学技術先進国へ向かって浮上していると信じられている韓国社会の別の断面を見せてくれる、胸痛む話だった。

 「科学技術先進国へ進入中」という華麗な修飾語と現場の研究員の劣悪な処遇。 こんな対比を、最近出された二つの統計でも見ることができる。 米国科学財団(NSF)は最近、各国の研究開発環境を調査して「世界の科学・工学指標2016」という資料を出した(goo.gl/1zxq1U)。国際比較指標において中国科学の躍進が目立つ。 2013年現在、調査対象の学術誌約1万7000種に掲載された論文219万9704編のうち、中国が18.2%(40万1435編)を占め、米国18.8%(41万2542編)に近接している。 もちろん論文数と研究の質は全く別の問題だが、こんな外形指標は世界科学技術の地図が変わりつつあることを示すに十分だった。

 その指標において韓国の位相も際立っていた。 韓国は論文数で見る時、世界9位(2.7%)を占める。 もう一つの重要指標である国内総生産(GDP)に占める研究開発費の部門では世界1位(4.15%)だ。 研究開発の総額では世界5位。 成長の趨勢は何年か前から現われていて今では新しいニュースではないが、こうした指標は韓国の科学技術が外形で見る限り研究開発力量を堅固に備えた国であることを見せてくれる。

 しかしもう一つの統計は、華麗な外形指標をどこか別の国の話のように感じさせる。 生物学研究情報センター(BRIC)が、2015年における医生物学分野の研究員の求人・求職データ約9000件を分析した資料を出した(goo.gl/qAuJXE)。 韓国社会の他の職種でも事情は似ているが、研究職の現場でも非正規雇用の割合が相当高いことが現われている。 求人資料では特に4大保険さえ保障されない職場が医科大学と大型病院の研究職にかなり多い(50.6%)という集計だ。 おそらくこのような求人職種の研究現場に、手紙を送ってきた研究者と同様、「いるようでもあり、いないようでもある」ように働かなければならない「非公式の非正規雇用」の幽霊研究員がもっとたくさんいるのだろう。

 幽霊研究員の手紙の内容を周りの研究者に伝えてみた。 何人かは、このような話がむしろブーメランとなって返ってくる恐れがあると憂慮しもした。 非正規職の処遇を改善しその比率を減らすとして施行した政府の政策以後、正規職の比率を高めるために不十分ながらあった非正規雇用を無くすケースが実際に生じたからである。

 手紙を送ってきた研究者の話と心配もそういうことだった。「非正規雇用で研究員を雇えば、職場内の非正規雇用の割合が高くなるからダメだという返事を聞いた時は、言葉を失いました。 頭隠して尻隠さずで、人を一瞬にして幽霊にしてしまったのです。 こんな処遇に耐えがたいという人も多いですが、返って来る刃が恐ろしくて行動できない私が恨めしいです。… 一研究員の訴えを読んで下さってありがとうございました」

オ・チォルウ生と幸福チーム記者 //ハンギョレ新聞社

 華やかな成長指標に酔っていてはならない。 研究現場の生に関心を向ける必要がある。 研究開発のピラミッドの最底辺で第一線を担っている人たちも、韓国の科学技術指標を他人の話としてではなく自身の誇りと感じることのできる日が来ることを切に祈る。

オ・チォルウ生と幸福チーム記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/729398.html 韓国語原文入力:2016-02-04 21:19
訳A.K(1769字)

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