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[コラム] 非正規労働の反人間性

登録:2014-12-04 17:02 修正:2014-12-05 10:39
キム・チャンヨプ ソウル大保健大学院教授・市民健康増進研究所所長//ハンギョレ新聞社

 噂の映画<カート>はまだ観ていない。ご存じの通り、非正規職労働者の不当解雇を扱った映画だ。 何度も観ようと意気込んだが観れなかった。観れるところがあまりに少ない。 どこの上映館でも一日に1,2回しかチャンスがないばかりか、時間を合わせることも難しい。

 当初の予想よりは観客が多いと言うが、それでも残念だ。 上映館検索が難しいほどにこの映画が周辺的で少数の側だという意味ではないのか。 大統領の公約に含まれるほどだから熱く敏感な主題の筈なのに。 今からでもより多くの人が関心を持って欲しいと思う。

 これ見よがしに逆進する政府の政策のために、より一層心が痛む。 この映画が非正規労働に対する関心を呼び起こしたと言うけれども、それだけだ。 大統領と雇用労働部までが身を乗り出して、正規職保護が行き過ぎていると新たな脅しをかけている。 政府は否認したが、名前も怪しげな中規職(期間制正規職)だの何だのと言って、戦争でも仕掛けるつもりか。

 私にとっては、必ずしもこの映画ならずとも疎かにはできない問題だ。 かなり長い間、健康不平等に関心を持つと言ってきた手前、今更言い訳はできない。 非正規職労働者の健康問題は、この時代を代表する不平等現象ではないか。 身体と精神の健康の両方を害する社会的原因になっていること、そして正規職に比べて不利な点が常に気にかかる。

 話をしてみると、多くの人が非正規職の健康が正規職に較べてなぜ良くないのかと聞いてくる。分かるようで分からないということだ。 第一には、暮らしの条件が厳しいためということが大きい。 賃金が少なく生活条件が劣悪ならば、健康が悪化するのは当然だ。 韓国では正規職との差が他国に較べてもさらに大きい。 食べること、住居、労働強度と環境、睡眠、人間関係などが全て作用する。

 もう一つ重要な原因としては、心理的、精神的ストレスがある。 雇用が不安定なことによる不安、差別、使用者との心理的葛藤、不公正と不正義に対する怒り、無力感、低い自尊感。 このような無味乾燥な表現になってしまうが、ストレスの原因であり結局は健康を害する理由だ。

 研究がまだ充分でなく、自信をもって話せないことがまだ残っている。 それでも最近になって、非正規職のストレスを、そしてその根本原因をより理解できるようになったのは大きな進展だと考える。 賃金と物質的条件だけでは解決できない、という解答を得たことが何よりも重要だ。 非正規労働者が健康を失わないようにするには、物質的条件とストレスの両方が健康的でなければならないという意味だ。

 ついでに言えば、このような‘リスク’は健康に影響を与えるから重要なのではない。 非正規職労働に伴う差別、不安定と不安、公正性と正義に対する絶望、無力感と自己卑下はどうなのか。 その結果に関係なく、人生の本質的価値と関連した部分だ。 健康と同等に、またはそれ以上に重要だ。

 原因がこうであるならば、経済と物質に限定されては答えが見つからないという結論が自然だ。 同一労働同一賃金というかねてからの約束でさえ、根本対策にはなり得ないという理由だ。 労働の条件と環境を改善することだけでは足りない。労働する人のやりがい、希望、自負心と自己肯定の源泉は別のところにあるのではなかったか。 結局、非正規労働の枠組みを抜け出さなければならない。

 健康という観点から、そして労働する人生の価値という脈絡から主張する。 自発的な場合を除いては、非正規労働を減らさなければならない。 正規職保護を解除するという政策も、今とは反対の方向に向くことが正しい。 社会統合と生活の質を語りながらも、今のようにしていることは破廉恥だ。

 <カート>を観たという同僚に、どうだったかと尋ねたところ、憂鬱という一言で口を閉ざした。 一緒にいた別のひとりは、だからわざわざ観たくはないと加勢した。 非正規労働の反人間性がこれほど身近なのかと思った。 正面から観るためにも、今度の週末には必ず時間を合わせなければならない。

キム・チャンヨプ ソウル大保健大学院教授・市民健康増進研究所所長

https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/667339.html 韓国語原文入力:2014/12/03 18:42
訳J.S(1829字)

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