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[寄稿]産経前支局長起訴がもたらした一つの効果

登録:2015-12-22 09:22 修正:2015-12-22 09:24
朴槿恵大統領のセウォル号事故当日の足取りに疑惑を提起し名誉毀損容疑で起訴された加藤達也前産経新聞ソウル支局長が17日午後、1審宣告裁判に出席するためにソウル中央地裁に向かっている//ハンギョレ新聞社

 朴槿恵(パク・クネ)大統領に対する名誉毀損容疑で起訴された産経新聞の加藤達也前ソウル支局長が18日、裁判所で無罪判決を受けたことが、世界のメディアで話題にされた。

 加藤前支局長が起訴されたのは、セウォル号が珍島近海の海に沈没した昨年4月16日の事故当日の7時間、国民の誰もが、花のように可憐な若い生徒たちが生きて返ってくることを心から待ち望んでいたその時間、国民の生命と安全を守ることで心配していると言っていた朴槿恵大統領がどこで何をしていたのかを書いたコラムのためだ。国民の誰もが知らなくてはならない、大統領としては知らせるべきだった自身の7時間の行動に関し、誰も知らなかった時のことである。今も同じではあるが。

 加藤支局長の記事は、見方によっては未婚の大統領の名誉毀損になりうる内容だった。愛国心を声高に叫ぶ保守右翼市民団体が加藤支局長を名誉毀損容疑で検察に告発し、検察はまもなく捜査に着手し「情報通信網利用促進および情報保護などに関する法律」上の名誉毀損容疑で加藤支局長を起訴した。

 大統領の権威を無視した憶測を基に男女のスキャンダルを記事化した外国メディア、それも日本の保守メディアに手厳しい“教訓”を与え、他のメディアにも警戒心を与えようと考えたのかも知れないが、加藤支局長を刑事事件で起訴したことで、朴槿恵政権が言論の自由を抑える本心を露わにしたとの批判が、直ちに国内外のメディアからあふれ出した。

 権力を批判し監視することが言論の基本使命であるのは常識だ。大統領を、あたかも選ばれた国王でもあるかのように待遇するのは、民主主義の信念が不確かな保守極右分子の考え方そのものだ。フランス下院は5月15日、大統領に対する名誉毀損罪を廃止する法律案を可決した。ヨーロッパ人権裁判所が、サルコジ大統領(当時)に向かって「マヌケ、消えてしまえ!」と書かれたプラカードを突きつけた市民に侮辱罪で罰金を賦課したフランス裁判所の判決を強く批判したのが契機になった。多くの法的恩恵を享受している大統領に名誉毀損の告発権まで認めるのは、法の前の平等に違反するという趣旨からだった。このような世界的な法認識から見れば、加藤支局長を名誉毀損で起訴したのは韓国検察の法認識がいかに後進的であるかを如実に示している。

 名誉毀損発言や文書を第三者が告発できるようにした法律にも問題がある。名誉毀損は各個人が判断する問題である。利害関係のない第三者が代わりに告発できるようにしたのは、大統領のように本人が直接動かず他人に告発させることで、権力機関が非難を避けながら市民の言論の自由を威嚇することに乱用されてしまう。加藤支局長の告発が代表的な事例だ。仏紙ルモンドによれば、名誉毀損を刑事的に処罰できるようにした韓国の法律に米国務省も憂慮を表明した。

チャン・ヘンフン言論広場共同代表//ハンギョレ新聞社

 李明博(イ・ミョンバク)ならびに朴槿恵の保守政権が続き、韓国の言論の自由が大きく萎縮しているというのも、国際言論監視団体の共通した判断だ。米紙ニューヨークタイムズも12月17日(現地時間)、加藤前支局長の無罪を宣告した韓国の裁判所決定を報じ、国連人権委員会が11月、「政府を批判し企業利益に邪魔になる人たちを起訴するのに名誉毀損罪を利用する事例が増えていることに憂慮を表明し(中略)、韓国は民主主義機能に必須の批評に対して寛容の文化を育てなければならないと指摘した」とする報告書を提出したと指摘した。

 結果的に韓国検察の加藤支局長起訴は、朴槿恵政権と検察の言論弾圧、そして表現の自由の抑圧を国際社会に露呈させる契機になった。

チャン・ヘンフン言論広場共同代表(お問い合わせ japan@hani.co.kr )

韓国語原文入力:2015-12-21 19:59

https://www.hani.co.kr/arti/society/media/722872.html?_fr=mt2 訳Y.B

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