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[寄稿]内に潜む韓流の敵

登録:2015-12-01 01:19 修正:2015-12-01 07:53
「K-POPワールドフェスティバル昌原」でガールグループ「シスター」が華麗なダンスを披露している=資料写真//ハンギョレ新聞社

 中国との国交正常化直前だった1992年、業務で北京を訪れた際、中国人ガイドから「韓国人は能歌善舞(歌と踊りが上手)の民族」と言われたことがある。その時は単なるほめ言葉だと思って聞き流したが、今となってみれば、「韓流」の到来を予見したのではないかという気もする。

 先日、慶尚南道の昌原(チャンウォン)で「K-POPワールドフェスティバル」が開かれた。 67カ国84の地域から1万2千人が挑戦し、最終的に14チームが舞台に立った。受賞したイギリス人女性は、「K-POP歌手になるのが夢」と話した。大賞を手にしたナイジェリアチームには前日、自分たちの“偶像”となった国内のアイドルグループの公演を見ながら感激したあまり、涙を流し人もいた。このような姿は、毎年米国で開催されるK-POP関連のイベントでも見られる光景だ。

 一方、韓流を作り出す韓国人の自画像は惨憺たるものだ。自殺率など、世界のトップを争う憂鬱な統計数値を並べる必要もない。一生懸命に生きているが、ほとんどがあまり幸せでもなく、希望もない人生に挫折している。外国人の目に「新鮮で専門的であり、発展的」に映る韓流を作りだしたという事実が謎に見えるほどだ。

 しかし、考えてみれば、韓流は矛盾の中で成長してきた。「パリパリ」(早く早く)が競争力に様変わりしたのに対し、「いい加減」はもはや許されない。そうなればなるほど、社会的なストレスは大きくなった。韓国の味付け(ヤンニョム)チキンは国際的な名声を得ている。しかし、これは自営業の代名詞である“チキン屋”10社のうち7〜8カ所の“壮絶な犠牲”の上に成し遂げられたものだ。韓流を生んだ私たち内部の無限競争と勝者独り占めには、少なくともそのような二面性があった。

 問題は、今、その矛盾の両面性すら“対称的均衡”が急速に崩れていることにある。“ダイナミズム”と共に韓国社会を支えてくれる“経済生活”が不安になったのだ。将来はおろか現実の生活を維持していくことすら難しい非正規労働者、特に間接雇用(総労働者の約20%)などの弊害は、韓国社会の“異常”を克明に表している。

 KTX女性乗務員が7年間の解雇無効訴訟の末、先月27日、ソウル高裁破棄差し戻し審で敗訴した。彼女たちは、「2年以上雇用すれば、正規雇用に転換するように定めた」現行法の規定から逃れようとした韓国鉄道公社(コレイル)に、正社員への転換を要求して解雇された。1審と2審で勝訴判決を受けたが、大法院(最高裁)は今年2月に「直接労働関係や派遣契約などに該当しない」とした。かつて「地上のスチュワーデス」という修辞が付いていた彼女たちが経験したひどい現実は、華麗なスターシステムの裏側の韓流内部を隠喩しているのではないか。

キム・ギピョン高級韓国語研究所代表//ハンギョレ新聞社

 ひどい労働環境のため、1842年当時の英国マンチェスターの労働者の将来の期待寿命値は17年だったのに対して、農民は38年だった。後に労働運動(チャーチスト運動)などにより状況は大きく改善された。米国連邦政府は、マイクロソフト社の「市場独占の状況」を防ぐために訴訟を出し、このような市場独占を阻止しようと努力する中で、フェイスブックなどのグローバル企業が生まれた。私たちにとっては、2012年の大統領選挙公約である「経済民主化」が決定的なきっかけになるはずだったが、財閥などの利益と相反したことから、現政権では事実上不可能になった。

 水は100度で沸騰する。 99度からは1度だけ足りなくても沸かない。文化は水と同じで、成否を分ける臨界値はその1度にかかっている。今、韓流が「うまく行っている」ように見えるかもしれないが、韓国社会の弱者が抱える問題が改善されない限り、そして韓流内部の略奪的行動が改善されない限り、これは一時の蜃気楼に転落する可能性もある。韓流の未来は私たちの内部にある。

キム・ギピョン高級韓国語研究所代表(お問い合わせ japan@hani.co.kr )

韓国語原文入力: 2015-11-30 18:56

https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/719689.html 訳H.J

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