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[コラム] 朴正煕時代に“漢江の奇跡”はなかった

登録:2015-04-15 00:21 修正:2015-04-15 06:36

韓国の進歩陣営の一部では、朴正煕(パク・チョンヒ)時代の国家資本主義的要素(経済計画、国家主導の金融、事実上の保護貿易など)を称賛している。 同じ時代の他の東・南アジア国家も、国家主導の開発戦略を使ったのではないか? 朴正煕の国家主導開発は例外というよりは、資本主義黄金期の普遍的方式に近かった。

朴正煕は福祉を通した抱え込みではなく、日帝末期や満州国と同じ方式の武力動員と暴圧、そして国家主義的規律化を好んだ。 “漢江(ハンガン)の奇跡”はなかった。朴正煕という日和見主義者が、世界経済の流れにうまく乗って、太平洋戦争総動員時期と同じやり方で自身の終身執権を試み失敗しただけだ。

朴正煕の国家主導開発とは何だったのか キム・デジュン//ハンギョレ新聞社

 「歴史とは、過去に投影された現在の政治だ」。ソ連時代のマルクス主義史学者ミハイル・ポクロフスキーのこの言葉は、特に伝統的に歴史認識が強い東アジアで実感できる。 隣国の事例から見ようとするなら、ヨーロッパの極右はヨーロッパ外からの移民など現実的問題をイシュー化したりするが、日本の極右は日本の現実的再武装の名分を勝ち取るために歴史の中の慰安婦強制連行を否定することによって日本軍隊の“失墜した名誉”を取り戻そうとしているではないか?

 韓国ではどうか。 現実の中の不況が深まれば深まるほど、“きらびやかだった産業化時代”に対する復古主義的熱気が熱くなる。 現在の執権勢力である強硬右派からして朴正煕シンドロームを大統領作りに活用した。 国政経験も業績も殆どない人が、“朴正煕の娘”という理由で相当な得票力を見せたのも、このシンドロームの力が大きく作用した。 持続的不安と新しい貧困の時代に、今や強硬右派以外の政治勢力さえも朴正煕症候群の活用に加勢している。 維新時期に拘束されたことのある主流野党の代表までが朴正煕の墓地に参拝したということは別に驚くべきことでもない。 中道保守野党であるだけに、保守層の普遍的な情緒である朴正煕崇拝を断れるはずもなかっただろう。 ところが、急進左派である労働党の内部からさえも朴正煕時期の計画経済要素(5カ年計画)などは認めなければならないという声が聞こえるほど、朴正煕症候群は想像以上に広範囲で複雑多技だ。 したがって、朴正煕時代の意味に対する本格的考察を一度しなければならないだろう。

 歴史が政治的名分の摸索を超えて科学になるためには、ひとまず功績と過ちを機械的に計算するなどの方法から脱却しなければならない。 「独裁は誤りだが、経済発展についてはよくやった」などという評価は、科学的方法とは何の関係もない。 科学としての歴史は、一国の歴史内外の種々の脈絡を考慮して、その時代の歴史的意味を総合的に把握することであって、人物に対する褒貶のための功罪の計算ではない。 人物の功過評価は、その時代の根本的性格に対する理解に従うのみだ。

 朴正煕時代の根本的性格とは、兵営国家と資本の本格的成長期であった。 このような成長を朴正煕の功労にしてしまってはならない。 世界資本主義の黄金期(50~70年代)である朴正煕時期には、東アジア全体が世界市場と連動され、未曾有の成長を経験したためだ。 1960~89年までの韓国と台湾の平均年間1人当り国民所得成長率を見れば、ほとんど差がない(それぞれ6.82%と6.17%)のであり、韓国の高度成長は当時の資本主義的東アジア国家として典型的だったに過ぎない。 それでは、世界資本主義の黄金期に東アジアだけが成長したのか? そうではない。 例えば、同じ時期のフィンランドの平均総国民総生産の成長率は約5%に達していた。 超高度成長ではなくとも、工業化と都市化の過程はそこでも-しかしより遅いテンポで-なされたわけだ。

 韓国進歩陣営の一角では、朴正煕時代の国家資本主義的要素(経済計画、国家主導の金融、事実上の保護貿易など)を称賛している。そのような要素がなかったとすれば、開発が不可能だっただろうという仮定までは正しい。 考えてみれば同じ時代の他の東アジア・南アジアの資本主義国家も国家主導の開発戦略を使ったではないか? 国際資本の流れに依存せざるをえないシンガポールも、今も人口の85%が国有地に国家が建てた低価格住宅で暮らしている。 国家の経済介入が非常に広範囲だったわけだ。 そして、アジアだけがそうしたのか? 新自由主義時代の到来以前には、ヨーロッパを含む資本主義世界の多くの国家で保護関税の活用や官製金融、国家による大企業所有などはしばしば見られる現象だった。 例えばノルウェーの場合、新自由主義が進行真っ最中だった2001年にも工業資産全体価値のうち国家の持分は約45%に近かった。1960~70年代、ノルウェー工業化は国家投資が主導した。 朴正煕の国家主導開発は例外というよりは、資本主義黄金期の普遍に近かった。

 朴正煕が奇跡を起こしたというよりは、冷戦期に米国が与える各種の特典(特に有利な条件で提供される借款と保護貿易に対する米国の黙認)を利用しながら、その当時として正常だった方式(国家介入)により、その当時として通常だった経済成長の効果を見ただけだ。 もちろん、韓国の名目上の成長率は、東アジアではそれほど高く見えなかったものの世界的定規で見れば相当に高かった。 工業化がほとんどされていない地点から出発したこともあり、国際銀行からの借款など外部からの投資も大量に受けた点が影響を及ぼした。 特に、内需ではなく輸出が主導した成長という点も強く作用した。 輸出主導の成長は速度は速いが、そのようなモデルが経済構造に引きおこす深刻な不均衡(輸出大企業とその下請け企業で成り立つ二重経済構造、構造的な低賃金強要など)は、後になっても殆ど是正されないために事後的に支払うことになる“代価”は大きい。 韓国は、今もこの“代価”を着実に支払っているところだ。

 深刻な低賃金労働による搾取により“奇跡”の成長率は達成されたが、経済が拡大する間、兵営国家の暴圧の下に置かれた社会は進化できなかった。 日帝末期と朝鮮戦争前後の時期を貫くキーワードは“国家暴力”であったが、この暴力は多少制度化された姿を帯びてその暴圧性の強度をかえって高めることになった。 50年代の韓国軍隊でも既に日帝時代の軍隊をほうふつさせる程の残酷行為が堂々と行われたが、“兵営忌避撲滅”を誇った維新時代に至ると、そのような残酷行為を骨格とする反人間的な“兵営文化”がほとんど固着化されてしまった。 ベトナムで各種の民間人虐殺を行ったりした軍の将校が、後に1980年の光州(クァンジュ)でその“手並み”を誇示するなど、兵営国家を後押ししてきたのは軍事主義的狂気であった。 経済は成長したが、社会の時計は逆に回った。中央情報部の創設以後には、そこで日帝時代の拷問技術がそのまま復活し、“発展”し、“烏鵲橋(オジャッキョ)作戦”のような海外滞留中の政権批判者に対する拉致工作は、日帝の警察による中国での独立活動家拉致作戦を連想させた。 サイレンが鳴ると、すべての通行人が一斉に立ち止まり、国旗下降式に強制的に参加しなければならなかったのは、日帝時代の宮城遙拝をその母胎としていたが、その規模と頻度は日帝時代にも見られないほどのものだった。 拡大を続ける経済は、日帝末期以上にち密で徹底した全体主義国家を後押しした。 朴正煕の“ケインズ主義”を称賛する自称進歩は、この部分まで果たして考慮に入れているのか?

 科学としての歴史の重要な方法論は比較論だ。 資本主義黄金期の国家主導成長の普遍的特徴は、福祉制度の整備であった。 経済を主導し成長を引き出す国家が、成長から生まれる余剰を活用し福祉という再分配メカニズムを通じて多数の被支配民を経済的に抱き込む計算だった。 韓国とさほど変わらず農業経済から工業経済に移動していたフィンランドが、すでに1950年代後半には普遍的国民年金を創設し、1970年には無償医療を導入したが、何も北欧を持ち出すまでもなく1960~70年代は福祉主義の重要な跳躍期であった。 韓国と多くの面で比較が可能な台湾では、労働者に対する社会的保険の導入はすでに1958年に行われていた。 非資本主義的発展の道を進んだ北朝鮮では、すでに1960年に無償医療と無償教育が導入された。 ところが朴正煕の韓国は、すでに李承晩時期末に導入された公務員年金以外には、ほとんど無福祉地帯であった。 朴正煕は福祉を通した抱き込みではなく、日帝末期や満州国と同じ方式の武力動員と暴圧、そして国家主義的規律化を好んだ。 韓国程度の兵営化を台湾やシンガポールでは果たして見ることができたか?

朴露子(パク・ノジャ、Vladimir Tikhonov) ノルウェー、オスロ国立大教授・韓国学//ハンギョレ新聞社

 “漢江の奇跡”はなかった。 朴正煕という希代の日和見主義者が当代の世界的経済の流れにうまく乗って、太平洋戦争総動員期と同じ方式で自身の終身執権を試み失敗しただけだ。 輸出依存と軍事主義的国家、再分配の不足のような朴正煕の遺産は、我々韓国人の足を将来にわたって引っ張るだろう。 朴正煕の英雄化よりは、狂気が乱舞した国家暴力時代の国内外被害者に対する補償と配慮が先ではないだろうかと思う。

朴露子(パク・ノジャ、Vladimir Tikhonov) ノルウェー、オスロ国立大教授・韓国学(お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/686819.html 韓国語原文入力:2015-04-14 20:03
訳J.S(4001字)

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