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[記者手帳]サードと韓国型ミサイル防衛

登録:2015-03-16 01:46 修正:2016-02-23 07:30

 米国のミサイル防衛の核心となる迎撃手段のサード(THAAD/高高度防衛ミサイル)が再び議論されている。ところが、今回の議論は少し様相が異なる。

 政界が積極的に議論を主導しているばかりか、最初から特定の武器を指名して「導入せよ」と促すのも異例だ。サードは、米国軍需会社ロッキード・マーチンが開発した「ミサイルを捕えるミサイル」だ。現在米軍がテキサス州に2個砲隊、グアムに1個砲隊を配備して運用しており、アラブ首長国連邦が1つの砲台を購入し配置している。どのような兵器を実戦に配備するかは、通常、軍当局の意見が尊重される。政界は概ね安全保障の懸念がある場合、対策を訊いて検討し、批判と助言を行う役割を果たしてきた。今回のように政界がサードという特定の武器を挙げて導入しなければならないと公然と「騒動を」を巻き起こすのも、これまで見られなかった姿だ。

 議論の焦点も二重的である。在韓米軍がサードを導入しなければならないという主張と、韓国側がサードを購入して配置すべきだという話が錯綜している。当初議論は、昨年6月にカーティス・スカパロッティ韓米連合司令官が米国軍当局に「個人的にサードの朝鮮半島展開を要請した」と明らかにしたことで、本格化した。この延長線上で見ると、在韓米軍のサード導入を話しているかのように聞こえる。しかし、米国はサードの朝鮮半島への配置をまだ決めていないというのが公式の立場だから、あまりにも先を急ぎ過ぎている様子だ。在韓米軍のサード展開に反対する国内外の勢力を狙った先制的な布石だとしても、物事には順序があるのではないか。ややもすると思い込みだけで不覚を取る羽目になる。

 「私たち(韓国)がサードを買って配置しよう」という主張なら、それも早まった結論だ。サード導入の中心論理は多層的なミサイル防衛網の構築だ。北朝鮮からミサイルが飛んできたら、まず高度150キロまで飛んでいくサードを使って上層で1次迎撃を行ってから、これに失敗した場合、パトリオット(PAC)ミサイルで高度15キロ以下の下層から2次迎撃する、2重の防御で迎撃成功率を高めなければならないというものだ。しかし、多層防御戦略は軍当局が構想している韓国型ミサイル防衛(KAMD)にも適用されている。現在保有している6つの砲台の「パトリオット2」ミサイルを改良し、「パトリオット3」を導入して下層防御を任せるとともに、上層防衛は「長距離地対空ミサイル(L-SAM、エルサム)」を独自開発し、高度50〜60キロで迎撃するという構想だ。

パク・ビョンス政治部先任記者//ハンギョレ新聞社

  にもかかわらず、サード導入を主張する声が出てくる背景には、国内の技術陣の長距離地対空ミサイルの開発能力への懸念が横たわっているとようだ。しかし、主要な構成品と武器システムの中核技術の研究を通じて、開発の可能性を検証する段階的なナビゲーションの開発が10月から3年間進行される予定だそうだから、その結果を見てから議論するのが順当ではないか。それとも、結果は見るまでもないから、今すぐエルサムはやめて、そのままサードを導入しようというのだろうか。それでもなければ、サードも購入してエルサム事業もそのまま進めようというのだろうか。サードは1個砲隊の配備に2兆ウォン(約2151億5000万円)がかかり、韓国全域を防御するには少なくとも2〜4個砲隊が必要であるそうだから、4兆〜8兆ウォンはかかることになる。エルサムも兆単位の費用がかかる事業だ。両方進めるとしたら、重複投資との非難を受けるのがおちだ。

 当初、政府がサードを導入しないとしたのは、米国のミサイル防衛(MD)編入が問題になっているからだ。何よりも、中国の反発が負担になっていたのだ。政府はこれまでエルサムを掲げ、「私たちは韓国型ミサイル防衛を独自に構築する」と主張してきた。しかし、サードを導入すると、韓国のミサイル防衛網の上・下層防御とも、米国の迎撃システムで構築することになるから、韓国型ミサイル防衛は説得力を失ってしまう。理屈が行き詰りそうな政府の立場が気の毒になる。そうではないのか?自らの言葉が足かせになっている政府の代わりに、政権与党がサード導入の世論作りに乗り出して助け舟を出しているのか。

パク・ビョンス政治部先任記者(お問い合わせ japan@hani.co.kr )

韓国語原文入力: 2015.03.15 18:43

https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/682278.html  訳H.J

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