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[コラム] ニューヨークタイムズと産経の言論の自由

登録:2014-12-04 17:10 修正:2014-12-05 05:18
オ・テギュ論説委員室長//ハンギョレ新聞社

<タイムズは、中国、米国、その他いかなる国であれ、その国の政府の要求に合わせて記事を書くことはない。(中略)記者に政府の好みに合う記事を書くよう要求するのは、権力者や何か隠すものがある人々を保護するだけだ。 世界の指導国と考える自信がある政府ならば、真実の取材と批判を甘受しなければならない。>

 11月12日、習近平中国国家主席が北京でバラク・オバマ米国大統領と首脳会談をした後、記者たちと行った一問一答で、中国指導部の腐敗事件を報道した『ニューヨーク タイムズ』記者のビザ発給拒否に関連した質問を受け「自動車が故障したら車から降りて何が問題か調べる必要がある」とニューヨークタイムズに責任を転嫁する返事をした。 これに対しタイムズは翌日「習主席に対する返事」というタイトルの社説を通じ上記の意見を明らかにした。

<在宅起訴は、韓国はもとより、日本はじめ民主主義国家各国が憲法で保障している言論の自由に対する重大かつ明白な侵害である。(中略)報道の自由、表現の自由が保障されてはじめて、自由で健全な議論がたたかわされ民主主義は鍛えられる。韓国当局は一刻も早く民主主義国家の大原則に立ち返ることを強く求める。>

 これは10月8日、韓国検察がセウォル号沈没当日「朴槿恵大統領の消えた7時間」というコラムを書いた『産経新聞』加藤達也前ソウル支局長を名誉毀損容疑で在宅起訴した当日、熊坂隆光産経新聞社社長が発表した声明の一部だ。産経はこれにとどまらず自社ホームページの特集欄に「産経前ソウル支局長在宅起訴」という項目を設け、世界のあちこちから出る関連記事を集めて伝えている。あたかも自分たちが言論の自由でニューヨークタイムズと同格であるかのように意気揚揚と今回の事件を自社の宣伝道具として活用している。

 もちろんニューヨークタイムズと産経を同列に並べて比較したら笑い話になってしまう。1971年にベトナム戦争に関連する米国防部の秘密文書を暴露した記事一つだけでも、世界の報道機関として不滅の足跡を残したニューヨークタイムズと、日本皇室に関して何も言わず隣国との葛藤を助長することに長けた産経を、まともな精神状態で同水準の新聞と言えるわけがない。

 しかし第三者の観点で見る時は、中国でのニューヨークタイムズや韓国での産経新聞は、どちらも当該国の政府が敬遠する報道をしたことで迫害を受けているのは事実だ。米国やヨーロッパの有力新聞も「国境なき記者団」のような権威ある言論団体もいっせいに韓国政府を批判していることがこのような現実を反映している。 相手国の元首をおとしめる“意図”(?)で事実関係をまともに確認する努力もせず、低質な記事を書き殴った記者を“言論の自由闘士”に仕立て上げた韓国政府当局の責任は大きいといわざるをえない。 「私をコメディの素材としても良い」と言った盧泰愚(ノ・テウ)元大統領の寛大な態度が懐かしくなる。

 11月27日、加藤前支局長に対する裁判が始まり、韓国での言論の自由論争だけでなく韓日間の葛藤も再び増幅されている。 こうして事態が不幸で残念な方向に動いているが、それでも私たちはここから教訓を得なければならない。 それでこそ前進できる。

 最初に、この際、報道に対する評価は徹底的に言論市場の自律と自浄に任せるという原則を立てる必要がある。権力の生半可な介入は、言論の自由のみならず国の品位も害するということを今回の事態はよく示している。第二に、言論も相手国の鋭敏な事案に対しては一層慎重で熟考する姿勢で接近することを悟らなければならない。

 言論の自由は国家が思いのままにできる専有物ではないが、言論人の努力なしにただで守られるものでもない。とはいってもより重要なのは政府の努力であろう。この点でダニエル・モイニハン元米上院議員の言葉は示唆に富んでいる。 「ある国の新聞が、良いニュースだけで満たされているならば、その国の良い人々はまちがいなく全員監獄に入っているだろう」。

オ・テギュ論説委員室長(お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/667344.html 韓国語原文入力:2014/12/03 18:46
訳J.S(1843字)

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