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【ハン・インソプ コラム】『レ・ミゼラブル』との同行

登録:2013-01-16 18:13 修正:2013-01-16 18:53
ハン・インソプ ソウル大法学専門大学院教授

 『レ・ミゼラブル』の話で熱い近頃だ。 映画の観客は500万人に達し、完訳本の小説も15万部以上売れたという。 ミュージカルも満席で、アルバム販売量も記録的だ。 解説記事もあふれている。 ついては、私自身のレ・ミゼラブルを一度話したい。 何の資格で?  生涯をその本とともに生きてきた“読者”としてだ。

 十才の時、田舎から釜山(プサン)に引っ越した。 田舎者とからかう地元風を吹かす雰囲気の中で、ほとんど仲間はずれにされていた。逃げ場? 学校の図書室しかなかった。 よく行くようになって、本を読む楽しさを覚えた。 本の虫になった弟のために姉が買ってきた本が『レ・ミゼラブル』だった。 私は引き込まれた。 ほとんど毎日、読んでまた読んだ。 夕方ミリエル主教に接し、夜中の12時近くには水汲みに出てきたかわいそうなコゼットに出会い、鼻の先がつーんと痛い明け方には下水道の中のジャン・バルジャンと震えながら会った。 このように主人公たちと共に追われ、胸を痛めつつ夜を明かした。

 暗鬱な維新体制下に大学生となった。 キャンパスは時に催涙弾が飛び交う戦場となった。 学生たちがむやみに引き立てられて行く中で、変革を夢見る学生たちは各国の革命史を耽読した。 革命の古典であるフランス革命も当然その中の一つだった。 完訳本で接した『レ・ミゼラブル』は、一言で言って民衆の多彩な人生を溶かし込んだフランス革命史であった。 古い体制、戦争の惨状、修道院の歴史、都市の浮浪児たち、さらには下水道の歴史に至るまで、全方位的知識が網羅されていた。

 青年時代をひきつけた場面はバリケードの夜だった。 1832年6月5日、抗争に立ち上がり壮烈に散華した青年たちは、ほかでもない1980年5月27日未明の光州(クァンジュ)の姿そのものだった。 青年たちだけではなかった。 秘めていた情熱を生涯の最後に燃やして死んでいったマブェプ老人、貧しい環境でもいつも愉快にしていた浮浪少年カブローシュ、命を投げ打ってマリユスを救おうとするジャン・バルジャンまで。 彼らの悲劇が私たちの現実と重なって、青年の胸をしびれさせた。

 30代初めにロンドンでミュージカル『レ・ミゼラブル』を初めて見た。 劇場の最後列の席でも感動を感じるのに不足はなかった。 歌詞が聞き取れなくても関係なかった。私なりに数十回も描き出していたものだったから。 その中でも邪悪な環境で時に悪事に手を貸しながらも恋心を大切に持ち続けたエポニーヌの存在があらためて浮び上がってきた。

 青年期までは自身を主演級や助演級と考えながら読んでいたが、年を取るにつれてエキストラにも目が行くようになった。 そのような観点から本を読みなおすと、作家がエキストラの1人1人にもどのように生気を吹き込んでいるのか、そのリアルな感じが伝わってくる。

 学者として刑事法の世界を探求するようになってからは、執念深い冷血漢とばかり見えていたジャベールに対する考えも挑戦を受けた。 職分に誰よりも忠実で、誤りに対して辞表をもって責任をとり、良心の呵責の前ではついに自殺を選ぶ、そのような公職者もなかなかいないだろう。 ジャン・バルジャンの立場からすれば、刑事制度は残酷で不公正なものと弾劾され得る。 前科者に対する冷遇がかえって彼をより一層悪い道に追いやるのではないのか。 愛のない抑圧が果たしてどんな改善効果をもたらすだろうか。 この時代のジャン・バルジャンはどのように生きているだろうか。 こうした疑問が私を重く押さえつけている。

 この小説の登場人物はしがない群像だ。 世俗的に見ればジャン・バルジャンは前科者であり逃亡者、ファンティーヌは未婚の母であり売春婦、コゼットは捨てられた孤児、カブローシュは都市の浮浪児、マリユスは暴徒だ。 経済的窮乏に加えて各種の偏見と烙印の中で生きていく境遇だ。 劣悪な境遇でも彼らは愛し、いたわり、連帯し、抵抗する。 邪悪な制度と慣習のくびきの下でも、慈愛と憐憫と愛を通して生きていくことができるような世の中に変奏させる。 非難されて当然のような人々が繰り広げる熾烈な生の苦闘を通して、作家は、誰も皆、それなりに意味ある存在であることを力説する。

 映画とミュージカル、小説を比較するとどうか、と聞かれることがよくある。 好みにより違うだろう。 私にとってこの小説は、読めば読むほど面白みを増し、考えることがより増すそんなものだ。 だからだろうか。 全国どこでも、完読された読者が十人でも集まるならば、そこに飛んでいって感動を分かち合いたい心情だ。

ハン・インソプ ソウル大法学専門大学院教授

https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/569772.html 韓国語原文入力:2013/01/15 19:27
訳A.K(2073字)

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