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戦線は広がり、秩序は崩れた…ガザ戦争勃発から2年、中東の秩序崩壊

登録:2025-10-03 09:19 修正:2025-10-06 05:59
ガザからの手紙 
イスラエルの砲火にアノミーに陥った中東
9月28日のイスラエル軍爆撃で、パレスチナ・ガザ地区のヌサイラート難民キャンプ内の建物が廃墟と化している/AFP・聯合ニュース

 イスラム組織ハマスによるイスラエルへの奇襲攻撃で2023年10月7日に勃発したガザ戦争から2年の間、イスラエルはパレスチナを越えて中東各地で戦争を繰り広げた。米国は先日、イスラエルと「ガザ地区戦争終息のための新たな平和構想」という合意案を作り、ハマスに最後通牒を送ったが、イスラエルはこの構想に撤退を遅らせられる内容を潜ませた。国際社会で孤立しても「スーパースパルタ」になるというイスラエルの砲火を止めることは容易ではなく、中東の力関係は大きく変わりつつある。

 イスラエルの放送「チャンネル12」と「タイムズ・オブ・イスラエル」は先月30日(現地時間)付で、イスラエル政府関係者の話として、ハマスが米国の提案を条件付きで受け入れ、イスラエル軍の撤退計画に対して問題を提起する可能性に備えていると報道した。ハマスの最終決定は、カタールの交渉団ではなくガザ地区の指導部から下さなければならないため、時間がかかるだろうと、同メディアは報じた。

 ドナルド・トランプ米大統領はこの日取材陣に対し、ガザの平和構想にハマスが答える時間を「3~4日与えることができる」とし、「我々には必要な署名がたった一つ残っているが、もし彼らが署名しなければ、地獄のような代償を払うことになるだろう」と述べた。AFP通信が報道した。

 前日、トランプ大統領は72時間以内にすべての人質解放、イスラエルの段階的撤退、臨時過渡政府統治と国際安定軍の駐留などを盛り込んだガザ戦争平和構想を発表した。イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相は、ホワイトハウスで2国間会談を行った後、この構想に合意し、その後、ハマスに合意案を送り、回答を待っている状況だ。

 舞台裏の状況も公開された。米メディア「アクシオス」は同日、イスラエルが議論の過程で、自分たちに有利な方向に平和構想の草案を修正したと報じた。ネタニヤフ首相はホワイトハウスでトランプ大統領に会う前日の28日、米ニューヨークでスティーブ・ウィトコフ中東特使や、トランプ大統領の娘の配偶者であるジャレッド・クシュナー氏に会って6時間ほど話し合った。この過程で、イスラエル軍の撤退をハマスの武装解除の進行と結び付けたうえ、撤退を中断する拒否権も手に入れたという。

 この2年間、イスラエルの軍事作戦はガザ地区にとどまらなかった。レバノンやシリア、イラク、イエメン、イランに続き米国の同盟国であるカタールまで、計7カ国を攻撃し、戦火が広がった。イスラエルは1948年の建国以来、4度にわたる中東戦争を行い、中東各国と激突したが、2年もの期間にわたり、このように多くの国家や組織と戦い、戦線を拡大したことはなかった。

 中東で地政学的対立の一軸だったイランが率いるシーア派連帯は、イスラエルの攻撃により崩壊寸前に追い込まれた。レバノンのシーア派組織ヒズボラは昨年9月、イスラエル軍のじゅうたん爆撃で壊滅に近い状況に追い込まれた。32年間にわたり同団体を率いたハサン・ナスララ事務局長をはじめとする指導部の多くがこの時、死亡した。ヒズボラの支援を受けていたシリアのバシャール・アサド政権は、この影響で昨年12月に崩壊した。

 イスラエルは昨年初めてシーア派の盟主イランを直接攻撃し、今年は大規模な爆撃までした。 今年6月、イランの首都テヘランなどの軍事施設と核施設を爆撃し、ナタンズ核施設に対する爆撃への米国の加担を引き出した。

 しかし、イスラエルは軍事的な勝利を重ねるほど政治・外交的には孤立し危機が深まるジレンマに陥った。

 イスラエルはパレスチナをほぼ物理的に除去できるところまで進んだが、「パレスチナ国家」に対する国際的支持はいつにも増して高まったことがそれを裏付けている。英国やフランスなど国連安全保障理事会常任理事国を含む西側諸国が、国連総会を機に最近パレスチナを独立国として承認した。今年9月の国連総会はイスラエルに対する糾弾の場となった。欧州連合(EU)は、イスラエルの極右閣僚への制裁や貿易恩恵の剥奪など、包括的な制裁案を発議した。

 ネタニヤフ首相は高まる国際社会批判と制裁の動きを意識して9月15日「イスラエルが一種の孤立状況にある」としたうえで、「私たちはますます自給自足的性格の経済に慣れる必要があるだろう」と述べた。さらにイスラエルを古代ギリシャの閉鎖的軍事都市国家スパルタにたとえ、「イスラエルがスーパースパルタ」にならなければならないと主張したが、イスラエル経済界からも「私たちはスパルタではない」という反発が殺到した。

 その後、ネタニヤフ政権が脱出口にしたのは再び米国であり、9月29日の平和構想案の発表につながったが、戦争が終わるかどうかは断言できない状況だ。

 また、2年間のガザ戦争で中東の既存地政学構図にすでに亀裂が生じ、イスラエルの暴走は当分続くものとみられる。

 ガザ戦争が行われる2年間、イスラエルは米国の引き止めを無視して独自の行動を追求する「戦略的攻勢国家」として中東で浮上した。高まる国際社会のパレスチナ国家承認の前で、ネタニヤフ政権はガザ地区の占領と西岸地区の合併を公に標榜せずとも、段階的かつ実質的に推し進める可能性が高い。

 特にイスラエルはこの機に「大イスラエル」を目指す思惑を露にしている。レバノン南部占領を永久化し、アサド政権の崩壊で勢力空白が生じたシリアで南・東部を占領しながら親西欧的なクルド族がいるイラク北部のイラン国境地域まで勢力の拡張を試みている。イスラエルからイラク北部まで至るいわゆる「ダビデの回廊」開拓を狙っているのだ。イスラエルはガザ戦争を終えてもガザおよび西岸を完全に掌握し、パレスチナ国家の出現を実質的に防ぐ一方、中東で攻勢的影響力を維持する「大イスラエル」路線に対する意志を放棄しないものとみられる。

 このような戦略的攻勢国家イスラエルの出現は、米国が進めてきた長年の中東政策に根本的な挑戦となっている。米国は1970年代からイスラエルとアラブ諸国の関係正常化を通じて、イスラエルの安全保障、パレスチナ問題の解決および自国の影響力維持を図る政策を推進してきた。1979年のイスラエルとエジプトの国交正常化を皮切りにした同政策は、第1次トランプ政権時代にアブラハム協定で受け継がれてきた。イスラエルとイスラム宗主国であるサウジアラビアの国交正常化を終着点とする同協定の進展は、ガザ戦争によって危機に瀕している。イランとの核交渉も、米国とイスラエルのイラン核施設爆撃後、可能性が低下しており、イランとイスラエルの対決はさらに激化することは明らかだ。

 ガザ戦争後、サウジアラビアはイスラエルとの関係正常化を拒否している。しかも、ガザ戦争後、イスラエルが中東全域に展開した戦略的攻勢は、サウジアラビアなどスンニ派、親米、保守、王政国家にイスラエルとの関係正常化はもちろん、米国に対する疑念を深めた。

 サウジアラビアはガザ戦争勃発前の2023年3月、中国の仲裁でイランと再び国交を結んだ。これに先立ち、サウジアラビアは2022年ウクライナ戦争が勃発するや西側の対ロシア制裁に参加せず、ロシアと交易を維持しながら石油価格をめぐる協力を続けてきた。米国・イスラエル陣営と中国・ロシア・イラン陣営の間で等距離外交を通じて勢力均衡を追求し始めたのだ。イスラエルは9月9日、中東で米軍の最大空軍基地があるカタールも空襲し、カタールの将校1人が死亡した。ネタニヤフ首相がトランプ政権の圧力でカタール政府に謝罪したが、サウジアラビアをはじめとする中東親米国家ではこの事件を機に米国に対する信頼が大幅に低下した。

 中東紛争の泥沼は今や大国の影響力さえまともに働かない新しい局面に入っている。ガザ戦争の責任を避けるため、中東全域に戦争を拡大してきたネタニヤフ政権は、来年10月に総選挙を行うものとみられる。トランプ政権も11月に中間選挙がある。両国の選挙が中東紛争を新たな局面に突入させるヤマ場になるだろう。

チョン・ウィギル、キム・ジフン記者(お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/international/arabafrica/1221898.html韓国語原文入力: 2025-10-02 11:16
訳H.J

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