「好きで行った韓国ですから、反対はしませんでした。『遊びにきて』と言ってくれていたのに…」
北海道根室市に住んでいる冨川歩さん(60)は30日、青天の霹靂のような知らせを聞いた。 韓国に留学していた娘の芽生さん(26)が29日夜、154人が死亡したソウル梨泰院(イテウォン)惨事で命を落としたという連絡だった。
冨川さんは同日午前のニュースを見て梨泰院で起きた事故について知った。彼は朝日新聞とのインタビューで「事故を知って(娘に)『危ないぞ』と伝えようと思い、電話したが、出なかった。まだ寝ているのかと思ったが、まさか現場にいたなんて」と声を震わせた。
娘が電話に出ないと、少し時間を置いてまた電話をかけた。電話の向こうから聞こえてきたのは娘ではなく韓国の警察官の声だった。彼は梨泰院惨事現場に芽生さんの携帯電話が落ちていたと話した。父親はその時「娘が事件に巻き込まれた」という事実を知ることになった。
それでも希望を持ち続けた。娘が無事であることだけを祈った。しかし、父の祈りは結局叶わなかった。午後5時過ぎ、日本政府関係者から電話がかかってきた。日本人犠牲者2人のうち1人が芽生さんであることが確認されたという連絡だった。
芽生さんは高校生の時から韓国が好きだった。札幌で専門学校を卒業した後、東京でウェブデザインとアクセサリー製作などの仕事をしていた。手作りのネックレスやイヤリングなどをオンラインで販売していた。普段好きだった韓国語を本格的に学ぶため、今年6月、ソウルに語学留学した。周りの友達には「機会があれば韓国と関連した仕事をしたい」と話していたという。韓国で新しい友達ができたことを父親にラインで報告したりもした。事故当日には「フランス人の友人と出掛けてくる」というメッセージを送った。
芽生さんのソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)の自己紹介欄には「韓国留学2022年6月~/アクセサリーデザイナー/カフェ/旅行/歌/Kポップ」と書かれている。「韓国で長く暮らしたい」と言っていた芽生さんは、留学を始めてわずか4カ月で惨事に巻き込まれた。
父親の冨川歩さんはNHKとのインタビューで、「留学する前からずっと韓国語の勉強をしていたので、本人が一番残念だと思う。早く娘に会いたい」と涙ながらに話した。彼は31日午前、娘に会うため韓国に向けて出発した。
在韓日本大使館は30日、梨泰院惨事で日本人2人が死亡したと発表した。他の犠牲者は10代の女性だという。日本外務省は領事局長を中心に対策室を設置し、被害者遺族を支援し、情報収集を続ける予定だ。在韓日本大使館には相星孝一大使が指揮する対策本部を設けることにした。