「現時点では今後の首脳会談については何ら決まっておらず、予断をもって申し上げることは控えますが、日韓関係を健全な形に戻すべく、我が国の一貫した立場に基づき、韓国側と意思疎通を続けていく考えであります」
日本の岸田文雄首相は22日(現地時間)、ニューヨークでの国連総会の成果を発表する国内外の記者との会見で、「どのような環境が整えば(韓国と)正式な首脳会談が開催できるのか」という質問にこう答えた。岸田首相が述べた「一貫した立場」は、強制動員被害者への賠償判決など両国間の重要懸案の問題について、韓国が先に解決策を用意しなければならないことを意味する。2018年10月に韓国最高裁の判決が出た後、日本の主な当局者は、韓日関係の改善の必要性に言及するたびに、この言葉を繰り返してきた。5月に尹錫悦(ユン・ソクヨル)政権が「屈辱外交」という残酷な内部批判を受けてまで推進してきた関係改善の努力に対しても、すぐには「誠意ある対応」をする意向はないことを示したわけだ。このような構図は、国連総会をきっかけに両国首脳が2年9カ月ぶりに困難の末に対面した後も変わらなかった。自民党で一番のハト派と目されている岸田政権が発足してから1年近くが経過したが、なぜ関係改善の糸口を探すことができないのだろうか。
最大の理由は日本政治の現実だ。27日に東京の武道館で開かれた安倍晋三元首相の国葬と自民党と統一教会の問題が、岸田首相を締めつけている。最近の各種世論調査では、岸田首相の支持率は急落した。日本経済新聞の今月の世論調査結果によると、内閣支持率は43%だった。1カ月前に比べ約14ポイント下がった。毎日新聞の調査では29%にまで低下した。
支持率が落ちる理由は明確だ。安倍元首相の死亡後に明らかになった自民党と統一教会の癒着疑惑と、性急に決定された国葬によるものだ。この二つの懸案をみる日本人の否定的な意見は60~70%に達する。自民党のある幹部は朝日新聞に「どこで反転させられるか。このまま下がり続けると厳しい」と述べた。岸田首相が首相の座を脅かされるほど、現在の状況は普通ではないということだ。自民党内の少数派閥出身である岸田首相は、世論の動向にいっそう敏感にならざるをえない。
日本政界では、政権が交替させられる条件として「青木の法則」がよく議論される。政権No2といえる官房長官などを務めた青木幹雄元議員は「内閣支持率と政党支持率の合計が50%を下回ると、政権運営は難しい」という法則を主張した。長い経験から出てきた言葉で、日本政界では信憑性ある基準として受け入れられている。
菅義偉前首相の場合、昨年8月に行われた世論調査で、内閣支持率26%、自民党支持率26%が出た後、次期総裁選挙への不出馬と辞任を宣言した。安倍元首相も2020年5月に内閣と自民党の支持率が20%台を記録すると、8月に辞任を表明した。世論の支持を得られなくなり、政権を引っ張っていく動力を失ったのだ。
岸田首相は昨年10月の就任後、平坦な道を歩んでいくようにみえた。運命が変わったのは、7月8日に憲政史上最長の首相であり、保守・右翼勢力の求心点の役割を果たした安倍元首相が銃撃で死亡してからだ。ひとまず死亡直後に行われた参院選では圧勝した。すると、岸田首相の長期政権を予測する声が出てきた。しかし、安倍元首相が亡くなった主な原因だった統一教会と自民党の癒着疑惑が暴露され続けると、世論は揺れた。
支持率反転のため、岸田首相は先月、大幅な内閣改造を断行し、自民党も自らの調査を通じ、統一教会と関係があった議員の実態を発表した。しかし、世論は元に戻らなかった。新内閣でも統一教会の関係者が続々と明らかになったうえに、自民党の調査も中途半端なものだという疑惑が広がったためだ。
これに拍車をかけたのが安倍元首相の国葬だった。安倍元首相に対する世論の評価が割れるなか、岸田首相は法的基準が明確でない国葬を、国会での議論もせず閣議で決めてしまった。さらに、自民党が安倍元首相と統一教会の関係を調査しないことを明らかにし、国葬に反対する雰囲気が広がった。朝日新聞は、世論の反感を買った国葬は27日に終わるが、物価高騰や統一教会問題などが打撃になり続けば、岸田政権は危機に陥る可能性があると診断した。このようなきわどい状況では、岸田首相は韓国と妥協を試みると支持率はさらに低下せざるをえない。
そのため、両国とも早急に乗りだすより、時間をとる必要があるという指摘が出ている。慶応大学の西野純也教授(政治学・現代韓国研究センター長)は、本紙の電話インタビューで「韓日関係は外交問題であるとともに、国内政治にも密接につながっている。支持率が低い岸田首相の立場としては、よりいっそう慎重にアプローチする必要がある」としたうえで、「現金化問題は急いで解決しなければならない懸案だが、両国の国内状況をみると、時間はかからざるをえない」と診断した。あわせて、国連総会での面会がなされたので、11月の主要20カ国・地域(G20)首脳会議や来年5月の広島での主要7カ国(G7)首脳会議などで会談を繰り返し、信頼を積み上げていかなければならないと助言した。特に、尹大統領に対しては「現金化問題の解決策について、(韓国の)被害者と世論をどう説得するかにより多くの努力が必要だ」と述べ、現在の状況が続くのであれば、「合意はしたが問題は解決できなかった“慰安婦(韓日合意)の事例”を繰り返す恐れがある」と強調した。