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中国はなぜ韓国のTHAADをこれほどまでに警戒するのか

登録:2022-08-12 06:32 修正:2022-08-12 08:59
「三不一限」外交慣例に反する脅しの理由とは 
「米、北東アジアに打ち込もうとする兵器」 
Xバンドレーダーが中国を監視すると主張 
THAADからさらに中距離ミサイルへの懸念 
台湾近くの沖縄への配備を最も警戒 
「韓米同盟に執着する」尹政権への牽制球の側面も
在韓米軍が2020年5月29日、慶尚北道星州郡草田面韶成里でTHAADと推定される装備を基地に運んでいる=韶成里総合状況室提供//ハンギョレ新聞社

 中国が最近、THAAD(高高度防衛ミサイル)問題と関連し、これまで公には主張しなかった新しい要求まで持ち出し、韓国に対する圧力を強めている。米中戦略争いの範囲とその激しさが、THAADが韓国に配備された2016~2017年とは全く変わった状況であり、これが台湾問題のように東アジア全体の情勢を揺るがす「厄介な問題」に浮上する恐れもある。

 文在寅(ムン・ジェイン)政権が2017年10月、THAAD「三不(三つのノー)」を宣言した後、水面下に沈んだかに思われたこの問題が再浮上したのは、今年の大統領選挙運動期間中だった。当時、「国民の力」の尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領選候補は1月末、フェイスブックに「THAAD追加配備」という書き込みを載せた。弾道ミサイル迎撃システムのTHAADは2016年7月、朴槿恵(パク・クネ)政権時代に配備が決定されてから、翌年4月に慶尚北道星州(ソンジュ)の在韓米軍基地に配備された。これをきっかけに韓中関係が険悪になり、中国は韓国に経済報復を加えた。同年5月に発足した文在寅政権は、10月に中国と「THAADを追加配備せず、米国のミサイル防衛システムに参加せず、韓米日軍事同盟を結ばない」といういわゆるTHAAD三不協議を通じてこの軋轢を「封印」した。

 THAAD追加配備を公約に掲げた尹大統領が就任したことで、THAAD「三不」問題は再び浮上し始めた。中国外交部の趙建報道官は先月27日の定例記者会見で、「新しい官吏(指導者)だからといって旧帳簿に背を向けてはならない」とし、THAAD三不の継承を求めた。さらに中国外交部の汪文斌報道官は、初の韓中外相会議が終わった翌日の10日、「韓国政府は対外的に『三不一限』の政治的宣誓を正式に行った」と主張した。既存の三不の他に、在韓米軍に配備されたTHAADの運用を制限するという「一限」の約束がまたあったという新しい主張を持ち出したのだ。

 「三不一限」を守れという中国の要求は強圧的な形で行われている。中国外交部の王毅部長(外相)は9日、パク・チン外交部長官との会談で「5つの『当然』の堅持」を求めた。このうち2番目の要求は「当然、近隣友好を堅持し、互いの重大関心事項に配慮すべきだ」という内容だ。王部長の言う「重大関心事項」はTHAAD三不を意味するものだ。

 中国がTHAAD問題と関連し、「当然の要求」という、一般的な外交慣行に反し無理で過度な要求を並べる最も大きな理由は、軍事・安全保障的な懸念のためだ。中国はこれまで、THAADを米国が中国を狙って韓国に配備した兵器システムとみなしてきた。韓国は、THAADを配備する目的が北朝鮮のミサイルを阻止するためのものだと説明してきたが、中国はそれを受け入れていない。中国官営メディア「環球時報」は9日付の社説で、「THAADは米国が北東アジアに打ち込もうとする楔であり、目的は地域情勢をかく乱して漁夫の利を得ること」だとし、「韓国は友人(米国)が渡した剣を絶対に受け取ってはならない」と主張した。中国はTHAADシステムに使われる「Xバンドレーダー」(AN/TPY2)が中国東部と東北部地域の軍事活動を監視する用途に使われるとみている。

 さらに韓国へのTHAAD追加配備を認めれば、以後沖縄から朝鮮半島に至る「第一列島線」に似た施設が続々と配置されることを懸念しているものとみられる。防衛用装備のTHAADよりも警戒すべきなのは、将来この地域に入る米国の中距離ミサイルだ。米国は2019年8月、旧ソ連と結んだ中距離核戦力全廃条約(INF)を最終的に破棄した。そのため、射程500~5500キロメートルの中短距離ミサイルを保有できるようになった。米国がこのミサイル開発を完了すれば、米中の力がぶつかり合う最前線の沖縄などへの配備を推進できる。沖縄は台湾の近くにある。中国にとっては悪夢のような状況が起きているわけだ。

 しかし、北朝鮮のミサイル能力が強化され、THAADの効用性は初めて配備された2017年より落ちたというのが客観的な分析だ。北朝鮮は2019年2月末、朝米ハノイの核交渉が挫折した後、北朝鮮版イスカンデル(KN23)や北朝鮮版エイタクムス(KN24)と呼ばれる変則的な弾道を描くミサイルを相次いで発射している。昨年9月(火星8型)と今年1月には極超音速ミサイルと主張するミサイルまで発射した。変則軌道を描きながら低く飛行するこのようなミサイルは、高度40~150キロメートルに位置するミサイルの迎撃が目的のTHAADでは対応が難しい。

 中国政府の大げさな態度には、韓国の新政権に対する強力な牽制球の側面もあるようだ。尹大統領は就任直後から韓米同盟の強化に集中する姿勢を見せている。米国と政治や経済、外交、軍事などすべての分野で競争を繰り広げている中国にとっては、韓国の保守政権が過度に米国側に傾くことは防がなければならない。他の問題では中国が露骨に反対する名分が少ないが、THAADは中国の安全保障上の利害を侵害する側面があるため、発言権がないとは言えない。また、過去の軋轢で一度韓国の譲歩を引き出したことがあるため、これをテコに韓国の対米接近を強く牽制することもできる。

北京/チェ・ヒョンジュン特派員(お問い合わせ japan@hani.co.kr)
https://www.hani.co.kr/arti/international/international_general/1054454.html韓国語原文入力: :2022-08-12 02:43
訳H.J

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