自民党内の穏健保守を代表する岸田文雄首相が、7月に行う参議院選挙公約に「平和憲法」に自衛隊の存立根拠を明記する改憲案を盛り込む方針を明らかにした。中国の浮上や北朝鮮の核開発、ウクライナ戦争などがもたらした急激な安全保障環境の変化の中で、戦後70年以上維持されてきた日本の平和主義の「最後の砦」が激しい挑戦にさらされることになった。
岸田首相は憲法記念日75周年を迎え、3日付の産経新聞とのインタビューで、憲法9条に自衛隊を明記する改憲案と関連し、「自衛隊の違憲論争に終止符を打つため、大変重要な課題だ」と述べた。自民党の総裁でもある岸田首相は「改憲は党是だ。憲法は施行から75年が経過し、時代にそぐわず、不足している内容もある。ぜひ改憲したい」と改憲に意欲を示した。岸田首相は7月の参議院の選挙公約に改憲を盛り込むかという質問にも、「次の選挙で改憲を訴えることになると思う。党の積極的な姿勢をアピールしたい」と答えた。
日本は敗戦後の1947年5月、現行の平和憲法を施行して以来、一度も改正したことがない。歴史をさかのぼれば、A級戦犯である東條英機内閣の商工大臣だった岸信介(1896~1987)から彼の外孫の安倍晋三元首相に至るまで、強硬保守が改憲に情熱を燃やしてきたが、日本国民の一貫した反対に直面し、実現しなかった。
この憲法の核心となるのは9条だ。第1項には「国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する」という内容の第1項と、「陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない」という内容の第2項で構成されている。自民党は9条第2項が現在厳然と存在する自衛隊の存立を脅かしているとし、第2次安倍内閣時代の2018年3月、自衛隊の存立根拠を新設する内容など4項目を改正する内容を盛り込んだ改憲案を発表した。
自民党は今年7月の参議院選挙が終わった後は3年間大きな選挙がないいわゆる「黄金の3年」が改憲の適期だとみている。そのため、2024年の通常国会(通常1~6月)で改憲を完了すべきという具体的な時期まで取り上げている。現在、野党の日本維新の会と国民民主党が賛成しており、改憲の発議が可能な衆参両院議席の3分の2の確保が可能だ。読売新聞は、岸田首相が表には出さないが、在任中の改憲に強い思い入れがあると報じた。
戦後、日本の平和主義を守ってきた日本国民の考え方も大きく変化している。読売新聞が3~4月に郵便方式で実施し、3日付に報道した世論調査(回答者2080人)の結果によると、改憲に賛成するという意見が60%を占めた。これは同方式で調査を始めた2015年以後、最も高い数値だ。憲法の条文を改めたり、新たな条文を加えたりする方が良いと思うもの(複数回答)は、「自衛のための軍隊保有」が45%で最も多かった。ただし、戦争放棄を規定した9条1項に対しては80%が改正に反対した。朝日新聞の郵便方式の世論調査(回答者1892人)でも、改憲に賛成するという回答が56%で、この方式で調査を始めた2013年以来最も高かった。
自民党内で最も穏健な派閥(宏池会)出身の岸田首相が安倍元首相の後を継いで改憲論議をリードしているという点も、多くのことを示唆する。岸田首相は今年、通常国会の開会式を行う1月の施政方針演説で、「(北朝鮮の)ミサイル問題や(中国の)一方的な現状変更の試みの深刻化、軍事バランスの急速な変化などの課題から目を背けない」と述べた。 自民党はこれに合わせて先月27日、防衛費(国防予算)を5年以内に現在の国内総生産(GDP)の1%から2%水準に増やし、「敵基地攻撃能力」を「反撃能力」に名称を変えて保有することを政府に提言した。学習院大学の青井未帆教授は朝日新聞とのインタビューで「ロシアによるウクライナ侵攻を受け、世論は漠然とした不安を感じているとみられる」とし、「第2次世界大戦の歴史に照らしても、政治家は国民の恐怖感を利用することは慎まなくてはならない」と強調した。