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ロシアに対する過去最大級の経済制裁…ドル体制に「ブーメラン」の懸念も

登録:2022-04-20 03:38 修正:2022-04-20 08:36
対ロシア制裁の後遺症について議論 
 
第2次大戦後で前例のない強力な制裁 
ロシアの外貨準備高を凍結する「新兵器」動員 
世界の経済力の3/2を占める国が参加 
ルーブル暴落に威力を発揮 
 
主要国の不参加が少なくない「不都合な亀裂」 
中国・インド・サウジなど自国の利益を優先 
人民元の国際決済網も浮上 
ロシアのガス輸出増で制裁の効果弱まる 
 
原油高で物価高騰…バイデン政権にも打撃 
米国のドル体制に深い傷の可能性
米国のジョー・バイデン大統領(右側)とロシアのウラジーミル・プーチン大統領(モニター画面中)が昨年12月7日、オンライン形式で会談している/ロイター・聯合ニュース

 2月末に始まったウクライナ戦争において、銃弾が行き交う実際の戦場よりもっと大きく決定的な激戦が起きている場所は、対ロシア制裁をめぐる国際経済の舞台だ。米国などは、直接の参戦は控えつつ、ロシアを屈服させるためにすさまじい経済制裁を続けている。これは、戦後70年ほど続いた米国の覇権と国際秩序の威力を誇示するものでありながら、その終末を早める可能性のある「危険な選択」になりうるという指摘が続いている。

 米国と欧州連合(EU)などが主導する対ロシア制裁は、ロシア産エネルギーなどに対する輸入禁止▽主要企業のロシアからの撤退▽国際金融決済ネットワークであるSWIFTからのロシア排除▽ロシア中央銀行の外貨準備高の凍結などだ。このうち、ロシアに対する禁輸と企業撤収は実体部門、金融ネットワークからの排除と外貨準備高の凍結は金融に対する制裁だといえる。

 ロシア経済の実体と金融部門を同時に攻撃する今回の措置は、第2次世界大戦後に米国が個人・団体・国家に科した各種制裁の合計を飛び越える「前例のない措置」だといえる。過去20年間、米国の金融制裁を考案してきたフアン・ザラテ元ホワイトハウス副補佐官(国家安全保障担当)は、6日付の英国紙「フィナンシャル・タイムズ」で、「想像できるすべての方法により、ロシアの金融と商業体系を絶縁させるという攻撃的なもの」だと評した。同紙は、特に世界の地政学的な秩序の一軸を成す国家であるロシアの外貨準備高を凍結した措置は、「敵を懲らしめるために、米国のドルとは異なる西側国家の通貨を武器に使ったものであり、極めて新しい形態の戦争」だという評価を出した。

 大規模な制裁だっただけに、威力は強烈だった。制裁の発表後、ロシアのルーブルの価値は1ドルあたり75ルーブルから一時は半分の138ルーブルにまで暴落した。西側の銀行に預けられていたロシアの外貨準備高が凍結され、ロシアは現在、事実上のデフォルト(国家債務不履行)の危機に陥っている状態だ。

 制裁の隊列も同じく堅固だ。2014年3月のロシアのクリミア半島併合の際には意見が異なったEUなどが、制裁の先頭に立っている。中立国のスイスや、NATO(北大西洋条約機構)とEUに未加盟のノルウェーも制裁に参加している。米国とEU加盟国27か国、英国、カナダ、オーストラリア、ニュージーランド、日本のような伝統的な米国の同盟国以外にも、韓国、シンガポール、台湾、バハマなども制裁に参加している。ロイター通信は「対ロシア制裁追跡」で、14日現在、計39カ国がロシアに制裁を加えていると集計した。「フィナンシャル・タイムズ」も同様に、今回の制裁を通じて、「西側」という概念はもはや地理的な概念ではなく、米国主導の堅固なグローバル同盟を指す意味になったと評した。

世界の外貨保有高に占める主要通貨割合の推移(上図、赤:ドル、ピンク:ユーロ、薄緑:円、緑:ポンド、深緑:人民元、灰色:その他、単位:%)および主要外貨保有国の順位(下図、単位:ドル)=資料:IMF、フィナンシャル・タイムズ//ハンギョレ新聞社

 制裁に参加する国々は、世界の経済力の3分の2以上を占める主要なプレーヤーだという点で、この連帯は質的には圧倒的だ。しかし、全世界195カ国のうち参加していない主要国が少なくないという点で、「不都合な亀裂」もうかがえる。米国と激しい戦略競争をしている経済規模第2位の中国の不参加は予想されていたことだが、米国が対中牽制のために努力していたインドをはじめ、南アフリカ共和国、メキシコ、ブラジルなども不参加だった。さらに、米国の中東の主要な同盟国であるイスラエルとサウジアラビアをはじめ、同じNATOに属するトルコも参加していない。

 これらの国家が、国連のロシアに対する非難決議には同意しながらも制裁には参加しないのは、各国なりに地政学的な利害関係が絡んでいるためだ。しかし、米国がロシア産エネルギーの輸入禁止などの実体部門ではなく、正常な運営のために「中立性」が重要となる金融部門にまで手を出しているという点には、少なくない懸念の声が出ている。2003年のイラク戦争と2007年の世界金融危機以降、侵食されつつある米国の覇権秩序が、今回の制裁を通じて結果的にいっそう大きな打撃を受けるだろうという指摘だ。

 特に、米国などがロシア中央銀行を相手に、自国内の銀行に預けられていたロシアの外貨準備高を凍結させた措置などは、既存の国際金融秩序に深い傷をつけるものとみられる。米国自らが基軸通貨であるドルを武器化したため、米国と競争中の中国とロシアは、そのリスクを回避するために、国際金融体制をブロック化する方向に進まざるをえなくなった状況だ。実際、ウクライナ戦争の前後に、ドル体制に亀裂を生じうる様々な兆候が現れている。

 一つ目は、ウクライナをめぐる緊張状況が戦争にまでエスカレートしつつあった昨年12月15日、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領と中国の習近平国家主席が、オンライン会談で、「『第三者』(米国)の影響を受けない独立した金融ネットワークを作ろる努力を加速化する」ことを確認しあったことだ。両国が両国間の貿易でドルではなく人民元とルーブルでの決済を増やそうとする努力は、目新しいものではない。しかし、米国がSWIFTからの排除や外貨準備高の凍結などの異例の措置を講じたことで、両国は今後、この課題をさらに急いで推進せざるをえなくなった。

 その過程で自然に注目されているのが、中国が2015年10月に運営を開始した人民元国際決済システム(CIPS:Cross-Border Interbank Payment System)だ。CIPSは現在、約100カ国1200機関が参加している。国際通貨基金(IMF)の高官だったブルッキングス研究所のエスワー・プラサド専任研究員は「CIPSはSWIFTの代案を提供できるゲームチェンジャーになる可能性がある」と評した。

 二つ目は、国際経済で侮れない存在感を持つインドとサウジアラビアなどが、ドル決済を縮小する動きをみせていることだ。インドは、ウクライナ戦争が勃発すると、ロシアのエネルギー輸入をルーブルとルピーによる決済方式で処理するという立場を示した。サウジアラビアも中国に販売する石油の決済代金の一部を人民元で決済するという議論をしている事実が、先月15日に「ウォール・ストリート・ジャーナル」の報道を通じて伝えられたことがある。

 実際、ウクライナ戦争の前から、各国の中央銀行の外貨準備高の構成におけるドルの割合は、縮小を続けていた。最近のIMFの統計によると、12兆ドル(約1550兆円)に相当する各国の中央銀行の外貨準備高に占めるドルの割合は、1999年の71%から2021年には59%に減少した。ユーロの誕生が最大の理由だが、中国の人民元など他国の通貨の割合が大幅に増えた。国際通貨体制の専門家のカリフォルニア大学のバリー・アイケングリーン教授は最近、IMFの共同報告書で、これを「ドル優位に対する見えない浸食」だと評した。

ロシアのウラジーミル・プーチン大統領と中国の習近平国家主席が2月4日に北京で会談した。両首脳はこの日「無制限の協力」を互いに確認し、プーチン大統領は20日後にウクライナに侵攻した=北京/タス・聯合ニュース

 三つ目は、ロシアに対する制裁の効果が弱まっていることだ。米国が2月末以降、SWIFT排除などの各種の措置を講じ、3月初めには一時1ドルあたり135ルーブルにまで下落したルーブルの価値は、最近は戦争前の水準の1ドルあたり80ルーブルの水準にまで上昇した。ロシアがガスなどのエネルギーの輸出を続け、ドルやユーロなどを稼いでいるためだ。さらに、エネルギーと原材料の価格が急騰し、ロシアがそれによって得る今年の収入は史上最高値になるだろうという分析も出ている。さらに、上昇したエネルギー価格により3月の米国の消費者物価指数(CPI)が40年ぶりに最も高い8.5%にまではね上がり、制裁を主導するジョー・バイデン政権に深刻な打撃を与える「ブーメラン効果」も観察されている。

 もちろん、中国のCIPS決済ネットワークや、インドとサウジアラビアのドル決済の縮小の検討などは、今もなお圧倒的なドル体制においては「コップの中の嵐」に過ぎない。最大の挑戦者である中国も、少なくないジレンマを抱えている。中国は、ドル以外には3兆2000億ドルに達する巨額の外貨準備高を置いておくところは当然ない。さらに、人民元が支配的な国際通貨になるには、自由な外国為替取引を許容しなければならない。これは、中国が国内の金融システムに対する統制を放棄しなければならないという意味であり、当面は不可能なことだ。米国財務省の高官を歴任した「モリスン&フォスター」法律事務所のジョン・スミス共同代表は、「米ドルの弔鐘は毎年鳴っているが、私たちはそのような事態をみることはできなかった。米ドル体制は、ウクライナ戦争の砲煙が晴れた後も続くだろう」と自信感を示した。

 アイケングリーン教授も、ドナルド・トランプ氏のような人物が大統領を務めた後もドル体制が存続していることをみてからは、ドルの地位を以前ほどはさほど心配しなくなったと語った。しかし、「ロシア中央銀行の資産凍結は衝撃だった。これが、米国の銀行に対する否定的な印象として作用し、ドルの過度な特恵を侵食する道に進むことが起こりうるとみる懸念は常に存在する」という指摘を忘れなかった。

チョン・ウィギル先任記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/international/international_general/1039456.html韓国語原文入力:2022-04-19 09:16
訳M.S

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