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インドはなぜ、新しい友人の米国を捨て、古い友人のロシアに向かったのか

登録:2022-04-07 03:44 修正:2022-04-07 07:53
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イ・ヨンインのグローバル・アンテナ
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領(左)とインドのナレンドラ・モディ首相が2021年12月6日、インドのニューデリーで首脳会談を行う前に握手をしている/ロイター
イ・ヨンインのグローバル・アンテナ//ハンギョレ新聞社

 ロシアのウクライナ侵攻は世界を驚かせた。大多数の国家がこれを非難するなか、いわゆる「民主主義国」に分類されるインドの沈黙は、また別の“衝撃”だった。特に、民主主義を旗印にインド太平洋戦略を前面に出し、「インド抱き込み」に努めてきた米国の困惑は大きいだろう。駆け引きに長けたインドは、今後も相当期間、米国の課題として残るものとみられる。インドの振る舞いは、クアッド(Quad、米国・インド・日本・オーストラリア4カ国の非公式の安全保障会議体制)をはじめ、東北アジアの安全保障の情勢にも、なんらかの形で影響を及ぼすことがありうる。

 インドは、ロシアのウクライナ侵攻の前後に国際舞台で繰り広げられた外交戦において、一度もロシアを公の場で非難しなかった。2022年2月11日、オーストラリアで開かれたクアッド外相会談の共同声明には、ロシアに対する言及は初めからなかった。米国のアントニー・ブリンケン国務長官は、会談後の共同記者会見で、「ロシアのウクライナに対する脅迫と危険な行動に対する複数の国家の支持」を非難したが、インドのスブラマニヤム・ジャイシャンカル外相は、クアッド加盟国が対立より協力と協調に注力するよう求め、反旗を翻した。インドは2月25日、国連安全保障理事会(安保理)のウクライナ侵攻非難決議案に、中国とアラブ首長国連邦とともに棄権票を投じた。米国ニューヨークで3月2日に開かれた国連緊急特別総会でも、ロシアの侵攻に対する非難と撤退決議案を棄権した。翌日のクアッド首脳会談でも、「ウクライナ人道支援・災害救済メカニズム」以外には、ロシアを非難するいかなる内容もなかった。

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インド、ロシア侵攻に沈黙を続ける

 インドはなぜ沈黙するのだろうか。特定の国家の外交・安全保障路線は、歴史的経験や脅威認識、それにともなう世論などの影響を受ける。一つ目は、インドとロシアの歴史的・地政学的な連帯関係が70年近くにわたり堅固であることだ。1947年のインド独立後、ジャワハルラール・ネルー初代首相とソ連のヨシフ・スターリン書記長の関係は緊密ではなかった。スターリンの死後、ソ連は1950年代からインドに経済・技術・軍事支援を提供し、両国関係が深まった。中国と国境をめぐり争ったソ連は、やはり中国と1962年に国境紛争を行ったインドに、条件なしあるいは低価格で安全保障を支援した。パキスタンとのカシミール紛争では、常にインド側に立った。さらに、1971年に第3次印パ戦争勃発時には、米国のリチャード・ニクソン大統領はインドを脅すために戦艦を送り、ソ連は戦艦を追い出すために海軍を派兵した。

 このように刻印された両国の歴史的DNAは、世論に多大な影響を及ぼす。そして、世論は政策決定者が身動きできる外交安保政策の空間的な限界を規定する。日帝の植民地支配や米国の朝鮮戦争参戦(いわゆる血盟)などが韓国人の歴史感情に根付き、構造的に外交政策の方向を変更することが難しいのと同様にだ。インドの場合も、支配層だけでなく一般人も、ロシアを事実上の「同盟」と考えているという。米国の時事週刊誌「タイム」は、「インドのソーシャルメディア上の世論は、概してインドの中立的な態度を支持している」とし、「ロシアに対する支持は、政治的な境界も越えている」と報道した。野党でさえ、ナレンドラ・モディ首相に対し、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領を孤立させるよう要求することはない。このような世論の状況では、モディ首相のような強力な指導者もロシアを無視できない。

 二つ目は、当面の安全保障上の脅威に関連し、中国の経済的・軍事的浮上によって、インドと中国の国力の不均衡がよりいっそう大きくなっていることだ。しかも、中国は南シナ海で攻勢的に軍事力を投入している。インドは2020年、インド北部のガルワン渓谷で中国と軍事的に衝突したこともあった。インドが中国の浮上に対し、ヘッジ戦略として米国との友好関係を強化しようとするのもそのためだ。

 しかし、現状ではロシア製兵器に依存せざるをえない状況にある。メーラ・シャンカル元駐米インド大使は、「インドはこの数年間、米国、フランス、イスラエルなどに武器の輸入先を多極化したが、今もなお60%はロシア製」だと、ドイツ放送局「ドイチェ・ヴェレ 」(DW)に明らかにした。T-90はインドの主力戦車であり、ロシア製のスホイ機とミグ機はロシア空軍で重要な役割を果たしている。インドは2018年10月、プーチン大統領のインド訪問を機に、ロシアと先端防空ミサイルS-400の砲台5基分(約54億3000万ドル、約6700億円)の購入契約を締結し、2021年12月から導入を始めた。モディ首相は2021年12月、インドのニューデリーでプーチン大統領と首脳会談を行い、2030年まで有効な10年間の軍事技術協力協定を締結した。

 インドの“二枚舌”を眺める米国と西側の内心は複雑だ。インドに駐在する西側国のある外交官は、米国の外交専門サイト「ディプロマット」に、「フェンスの上に座って中立的な態度をとるインドの姿は、米国や他の西側諸国との関係拡大に影響を及ぼすだろう」と述べ、不快さを示した。米国インディアナ大学政治学科のスミト・ガングリー教授も、「フォーリン・ポリシー」3月3日付の寄稿文で、「米国と他のパートナー諸国の忍耐心にも限界がある」とし、「パートナー諸国もインドに入場券を無制限に与えはしないだろう」と警告した。

 しかし、米国のジョー・バイデン政権は、インドへの直接的な非難は自制している。国連安保理決議案の採択失敗後、国務省は自国の外交官に「インドとアラブ首長国連邦のカウンターパートに会い、批判せよ」という電文を送った後、すぐに回収した。米国側につかなかったインドに口惜しさを感じつつも、中国牽制という戦略的価値を考えれば捨てることもできない米国のジレンマを端的に示している。

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韓国・米国・日本の安保協力強化を後押しか

 東欧の危機がある程度落ち着いた後、米国の外交政策の重点が欧州からふたたび中国に移ったとしても、インドに対する米国の期待値は以前より低くなるだろう。クアッドの結束力を強化しようとする試みも、弾力を失う公算が高い。しかし、米国が「インド抱き込み」に対する低調な成績表を挽回するために、AUKUS(米国、英国、オーストラリアの安全保障同盟)の役割をいっそう強化し、北東アジアで焦りを示す可能性もある。韓国、米国、日本の安保協力強化は、米国が取り出しやすいカードだ。韓国がスピードと緩急を調節しなければ、中国との関係設定はよりいっそう難しくなるだろう。

イ・ヨンイン記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/international/international_general/1037713.html韓国語原文入力:2022-04-06 09:04
訳M.S

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