冷え切っていた場内が急に熱くなる。100人余りの出演者が潮のように押し寄せる。金メダルでも取ったかのように手を振って歓呼する。一部はその場でぴょんぴょん飛び跳ねたりもする。彼らの視線が向けられているのはただ一点。やがてその場所から、赤いマスクをつけた習近平中国国家主席がゆっくりと歩いて登場する。
雰囲気はさらに熱く盛り上がる。大型スクリーンの中の習主席はゆっくりと手を振り、この瞬間を楽しんでいるように見える。習主席とトーマス・バッハ国際オリンピック委員会(IOC)会長が入場を終えると、出演者たちはすぐ引き潮のように退場する。1分以上続いた熱烈な歓迎。2022北京冬季五輪の閉会式(20日)が開かれる直前の、中国・北京の国家体育場の風景だ。
この日の閉会式はまさに中国の全国体育大会を彷彿とさせた。観客席は赤いちょうちんで埋め尽くされ、中国の国旗の五星紅旗を振る観客がうねりを作った。この日記者がもらったカバンには五星紅旗と五輪旗が入っていたが、式典行事の司会者は五星紅旗が描かれた応援グッズを使うよう誘導した。開会式の時も五星紅旗をもらったが、ここまで露骨ではなかった。赤く染まった観客席は、いろいろな面で世界の祝祭とは思えなかった。
大会に対する評価が中国国内と国外ではっきりと分かれる状況。中国はこの日の閉会式を内部結束用として行うことを決め込んだように思えた。中国色を入れず先端技術を中心に構築した開会式ともはっきり違っていた。
習近平主席はこの日、二度も「称賛」の時間を持った。4日に開かれた開会式の時も、習主席は式の開始と同時に大型スクリーンに登場し、1分ものあいだ歓呼を受け、ぎこちないムードを作り出した。開催国の首脳が開会・閉会式に出席するのはおかしなことではないが、通常は最後に大会の開会を宣言する役割にとどまる。
バッハ会長はこの日の演説で「皆さんが見せてくれた連帯と平和が政治指導者に感銘を与えることを願う」「皆さんはそれぞれ国が対立している中でも分裂を超えて統合を成し遂げた」など、称賛を浴びせた。習主席が五輪開幕前にウクライナを脅かしているロシアのプーチン大統領と固い連帯を誇示したことを、彼はもう忘れたのだろうか。空虚な言葉は崩れた五輪の威信を立て直せず、バッハ会長の演説は苦しいばかりだった。今回の大会の真実は、彼が開会式の時に習主席に向かって腰を低くした態度がよりよく表している。
中国は今回の大会のスローガンとして「共に歩む共有された未来」(Together for a shared future)を掲げた。2026年に開かれるミラノ・コルティナダンペッツォ冬季五輪大会のスローガン「互いに違っても、一緒に」(Duailty, Together)と比較すると、ともに同じ目標だけを見ていこうという全体主義的な言葉に聞こえる。スローガンが向けられていたのは、最初から世界ではなく中国内部だったという気さえする。彼らが語る未来とは、誰が計画し、望む姿だろうか。大型スクリーンの中の習主席の姿が頭にちらつく。