スティーブン・ウォルト
ハーバード大学ケネディ行政大学院のスティーブン・ウォルト教授(66、国際関係学)は、国際政治でパワー論理を重視する代表的な現実主義学者だ。2018年に刊行した『米国外交の大戦略(The Hell of Good Intentions: America's Foreign Policy Elite and the Decline of U.S. Primacy)』では、市場経済と自由民主主義、人権を世界に移植する過去30年間の「自由主義覇権」政策を廃棄し、域内同盟国を活用する「オフショア・バランシング」戦略に立ち戻ろうと主張している。
-バイデン大統領のこの1年間の対外政策を評価してほしい。
「概してバイデンは厳しい状況でかなりうまくやってきた。彼はアフガニスタンで敗北した戦争を引き継ぎ、撤退は正しい決定だった。勝利の見通しはなく、撤退したことで米国は中国や気候変動のようなより重要な問題に集中できるようになった。また、バイデンはドナルド・トランプがアジアと欧州の同盟国に与えた被害を復旧し始めた。完璧ではないが、前任者に比べて明らかに改善している」
-バイデン外交の成功と失敗の例は?
「成功は米国の主要パートナー国家に対して、米国が共同の目標の達成に向けて協力することを望んでいるという点を明確にしたことだ。グローバルな租税回避国(タックス・ヘイブン)規制に合意した点や、ロシアに対する欧州の団結した立場を作った点などだ。最大の失敗は、イランとの核協定に即時再加入しなかったことだ。協定を復活させるのは現在はいっそう難しいだろう。バイデンは混乱したアフガンからの撤退を不当に非難された。実際、アフガン政府は『紙でつくられた家』(ハウス・オブ・カード)だった。苦痛を伴わずきれいなやり方で米国の関与を終わらせる方法はなかった」
-同盟国とともに中国を包囲するバイデンの戦略は、あなたが提案する「オフショア・バランシング」(域内の同盟国を活用し米国に直接的な脅威になる時だけ介入)と一致するか。
「中国が支配するのを防ぐためにアジア同盟を強化することは『オフショア・バランシング』と一致する。この遂行を成功させるためには、米国がこれを優先順位に据え、他の問題に集中力が分散しないようにしなければならない。しかし、米国が外交政策において心配しなければならないことは中国問題のほかにも多い。例えば気候変動の場合、バイデン政権は中国とこの分野で協力しなければならないことを知っている」
-米中が激しく競争しながらも気候変動、公衆保健、イラン、北朝鮮などの問題で協力することは可能か。
「もちろん可能だ。長期的にこれはワシントンと北京が直面することになる外交政策上の単一の最大課題だ。つまり、一部の領域で激しい競争をしながらも、両国そして全世界に莫大な被害を与える戦争に陥らず、他の領域では協力を続けるというのをいかにすべきかという問題だ」
-バイデン大統領は外交政策で民主主義と人権を強調している。あなたが批判する「自由主義的ヘゲモニー」を振り回しているとみることもできる。理念と価値を重視するバイデンの外交が成果を出せると思うか。
「自由主義的価値は依然として米国で、特に外交政策エリートたちの中で深く維持されている。バイデンがこれを外交政策の最も重要な要素にしようとすれば、おそらく失敗するだろう。米国が全世界にとって良い手本となり、ほかの社会も自らこの方向に動くよう奨励できるよう、米国の民主主義の何が間違っていたのかを正すことに集中しなければならない」
-米中戦略競争で韓国は双方から役割を求められる難しい選択に直面している。韓国はどのような戦略を取るべきだと考えるか。
「アジアで勢力バランスを維持するのをサポートし、中国が覇権的地位を得るのを防ぐのが韓国の利益に合う。中国が覇権的地位を獲得すれば、アジア諸国は多くの問題で中国が望む通りに従わなければならず、中国の怒りを買わないように何でもしなければならなくなる。韓国が外交政策の自主性を維持し、経済成長を続けることを望むなら、東アジアでしっかりした勢力バランスがなければならない。米国との関係を維持し、日本など他のアジア諸国との関係を改善するために努力することが、韓国にとって最善の道だ」