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[ニュース分析]日本、サプライチェーンの不安定性を前に経済安保全面戦争の刀抜いた

登録:2021-11-30 06:15 修正:2021-11-30 07:56
新型コロナに米中戦略競争まで重なり 
原材料の需給不安定に、産業生産ゆらぐ 
安倍元首相時代から専門部署設置して対応 
岸田首相、「しのぎを削る」との表現使い、覚悟新たに 
 
政府が乗り出して主要半導体企業を自国に誘致 
人工知能・量子など研究開発への支援も 
韓国と違い、汎政府レベルの会議を中心に推進
岸田文雄首相は今月19日、「経済安全保障推進会議」の初会合を開いた=首相官邸ホームページより//ハンギョレ新聞

 「世界各国が戦略的物資の確保や重要技術の獲得に鎬(しのぎ)を削る中、我が国の経済安全保障の取組を抜本的に強化することが重要です」

 19日午前10時、首相官邸2階で、岸田文夫首相はこの日初めて招集された「経済安全保障推進会議」で、現在急速に進んでいるグローバルサプライチェーンの再編など、経済安全保障の危険要因に対処する日本の覚悟を「激戦」に臨む姿勢に喩えて表現した。同日、岸田首相が激戦を繰り広げるという意味で使った「鎬」とは、日本の刃物の刃と峰の間の膨らんでいる部分を指す。攻撃する相手の刃をこの部分で受け止めるため、日本政府が準備中の経済安全保障対策を日本の国運をかけた「真剣勝負」に喩えたわけだ。そのような重要性のためか、同会議の議長は岸田首相自身が務め、小林鷹之経済安全保障担当相、林芳正外相、岸信夫防衛相ら閣僚全員が出席した。

 半導体など先端技術分野の技術覇権をめぐり熾烈に繰り広げられている米中戦略競争の中、「グローバルサプライチェーン」の安全を保障することは世界主要国の共通課題となった。文在寅(ムン・ジェイン)大統領は尿素水の品薄現象が起きた直後の9日、国務会議の冒頭発言で「国際分業体制が揺らぎ、物流のボトルネック現象と低炭素経済への転換が加速化する産業環境の変化で、サプライチェーンの不安はいつも起こり得る危険要因になった」とし、「この際、世界的なサプライチェーンの変化による原材料需給問題をより広範囲に点検する必要がある」と述べた。その後、産業通商資源部は11日、「サプライチェーン安全点検会議」を開催した。日本はここからさらに踏み込んで、グローバルサプライチェーンの安全確保と先端技術開発など「経済安全保障」問題に対処するため、首相が議長を務め、全省庁が協力する会議を作ったのだ。

 もちろん、経済安全保障に対する関心が岸田政権になって突然始まったわけではない。昨年、米中戦略競争が激化し、新型コロナウイルス感染症によるパンデミックの長期化に伴い、グローバルサプライチェーンの脆弱性が明らかになったことを受け、日本でも「経済安全保障」に関心が集まり始めた。新型コロナによるパンデミックが始まった直後の昨年2月、「世界の工場」とされる中国の主要都市が封鎖され、グローバルサプライチェーンが大打撃を受けた。中国に頼っていた主要部品の調達ができなくなり、世界の主要自動車メーカーは一時的に生産を中止せざるを得なかった。当時自民党からは「日本殺すにゃミサイルいらぬ。マスク一つあればいい」という悲鳴が聞こえてきた。

 安倍晋三元首相はこうした状況に立ち向かうため、昨年4月に国家安全保障局の下で「経済班」を新設した。2カ月後の6月、自民党の政務調査会の下には「新国際秩序創造戦略本部」が設置された。同戦略本部は13回の会議を経て、同年12月にA4用紙70枚分の「『経済安全保障戦略策定』に向けて」という提言を発表した。同提言は経済安全保障の必要性などに言及し、最近は「経済的要因が安全保障を大きく左右しうる時代」だと診断した。それとともに「我が国の『国家安全保障戦略』には経済安全保障の視点が盛り込まれていない」とし、「経済安全保障戦略を策定し、実施に向けた適切なメカニズムを整備したうえで、『経済安全保障一括推進法(仮称)』の制定を目指すこと」を求めた。当時、政調会長としてこの問題に関心を持っていた岸田氏が首相に就任するとともに、戦略本部で事務局長として実務を担当していた小林議員を経済安全保障担当相に抜擢したのだ。岸田政権は北村滋前国家安全保障局長ら外交・安全保障・経済分野の関係者18人で構成される有識者会議を開き、経済安全保障推進法案を検討する予定だ。日本政府は、来年7月に行われる参院選前に、同法案を国会に提出することを目指している。

 岸田首相は同日の会合の冒頭発言で、経済安全保障推進会議の目標として、サプライチェーンの強靭化を通じて、日本の経済構造の自律性を向上させること▽人口知能(AI)・量子など重要技術の育成に取り組み、日本技術の優位性と不可欠性を確保すること▽基本的価値やルールに基づく国際秩序を維持・強化を目指すことという3つを挙げた。

 第一目標である「グローバルサプライチェーン」については、半導体や大容量電池、レアアース(希土類)などいわゆる「重要資源」やその原材料の日本国内の製造基盤を強化する案が進められている。日本に生産施設を建てれば、政府が直接補助金を与えるということを法案に明示する予定だ。代表的な事業が「産業のコメ」と言われる半導体だ。日本の半導体は1980年代後半に世界市場の半分を占めるほどの競争力があったが、今は韓国や台湾などに押されて競争力を失った。それにより全体需要の60%以上を台湾や中国などから輸入している。自然災害や外交的な対立でサプライチェーンに問題が生じた場合、産業全体に影響を及ぼしかねない。

 このような脆弱性を克服するため、日本政府は主要な海外半導体会社の国内投資の誘致に乗り出した。これを受け、半導体ファウンドリ(委託生産)世界最大の台湾TSMCが今年10月、熊本県に半導体工場を建設すると発表した。初期設備投資額が約8000億円に達するが、このうち半分の4000億円を日本政府が補助する方針だ。日本経済新聞は23日付で、日本政府が米メモリー半導体メーカーのマイクロンなどを広島に誘致するため、2000億円を支援することを検討していると報じた。

 第二目標の先端技術の研究開発支援については、5000億円規模の経済安全保障関連基金を別途に作って支援する計画だ。中国などを念頭に、機密流出部分も整備される。通信やエネルギーのような主要インフラは、重要な設備を新たに導入する際、政府が事前に審査する制度を設けることにした。中国など安全保障の面で脅威となる国の製品が含まれているかどうかを確認する。特許に関しても、安全保障関連の機密技術の流出を防ぐため、特許出願の際に情報を公開しない制度を整える方針だ。

 第三目標の達成のためには、安全保障同盟の米国などと連携を強めている。米国のジョー・バイデン大統領と菅義偉首相(当時)は、4月16日の首脳会談で、半導体サプライチェーンの構築とともに第5世代通信(5G)など最先端通信技術の開発に両国が45億ドルを投資することで合意した。日本はそれとともに米国、日本、インド、オーストラリアの4カ国協議体である「クアッド」も積極的に活用している。3月のオンライン首脳会談に出席した4カ国の首脳は、レアアースのサプライチェーンについて協力することで意見が一致し、9月に米ニューヨークで開かれた初の対面首脳会談でも、半導体と関連して4カ国の供給能力を確認し、サプライチェーンの安定性を強化することで合意した。米日は17日、経済全般における連携の強化を念頭に、中国との通商問題や環境、サプライチェーン、脱炭素、デジタル経済など幅広い分野について協議する新たな枠組みを設けることにした。

 韓国が最も注目すべきなのは、日本が米国などと協力を強化しながら、中国といかにバランスを取っていくかだ。これに関連して日本国内でも経済の「脱中国」は現実的に不可能性あり、むしろ被害が大きいという指摘が相次いでいる。財務省の「貿易統計」によると、日本の対中輸出の割合は2000年の6.3%から2019年には19.1%まで増加した。輸入も同期間中14.5%から23.5%まで増えた。日本貿易振興機構(ジェトロ)の佐々木伸彦理事長は最近、朝日新聞とのインタビューで、「中国市場は日本企業が稼げる市場だ。断ち切れる相手ではない」とし、日本が米国と協力して中国を引き入れられる国際的なルール作りを進めていくべきだと述べた。東京大学公共政策大学院の鈴木一人教授も、東洋経済電子版への寄稿で、経済安全保障は「自由貿易原則や資本の自由移動によって最適化されてきた生産体制やサプライチェーンを、安全保障の観点から修正し、制限していくこと」であり、「ルールに基づく国際秩序と矛盾する部分が多い」としたうえで、「他国による一方的な貿易制限措置や制裁に警戒しつつ、同盟国・友好国との関係を通じて安定した経済活動を可能にする基盤を作っていく必要がある」と強調した。

東京/キム・ソヨン特派員(お問い合わせ japan@hani.co.kr)
https://www.hani.co.kr/arti/international/japan/1021266.html韓国語原文入力:2021-11-30 02:34
訳H.J

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