東京五輪を約70日後に控えた状況で、日本国民の約60%は五輪を中止すべきだと考えていることが分かった。五輪中止を呼び掛ける署名運動やデモなど日本の世論が悪化する中、今月中旬に予定されたトーマス・バッハ国際オリンピック委員会(IOC)会長の来日も見送られたという。
読売新聞は今月7~9日、電話世論調査(回答者1092人)を実施した結果、回答者の59%が東京五輪を中止すべきだと答えたと10日付で報じた。五輪開催に賛成すると回答した人の中でも、今回の五輪を最初から「無観客」で行うべきという意見が多かった。国外だけでなく、日本国内の「観客を入れずに開催する」という回答が23%で、「観客数を制限して開催する」(16%)より多かった。今回の調査では、「五輪を延期すべきか」という質問はなかった。
五輪開催に対する世論が良くないのは新型コロナ対応の影響が大きい。ワクチン接種が遅れ、3回目に発令された緊急事態宣言が延長されるなど、日本政府の防疫対策に対する不満が高まっていることが分かった。回答者の68%は、政府の新型コロナ対応を「評価しない」と答えた。「評価する」という回答は23%で、先月同調査の時より12%下落し、調査が始まった昨年2月以降最も低かった。日本の一日の新規感染者数は8日に7192人を記録し、4カ月ぶりに最多となったのに続き、9日にも新たに6488人の感染者が発生した。
五輪中止を求める動きも本格化している。宇都宮健児・元日本弁護士連合会会長は、5日昼からオンライン上で五輪中止を呼び掛ける署名を始めたが、5日後の10日までに31万人を超える人が参加した。9日午後には、陸上テストイベント中の東京新宿の国立競技場周辺で、市民100人余りが集まり、「五輪より命を守れ」などのスローガンを叫びながらデモを行った。彼らは「新型コロナで死亡者が増え続けているのに、検査やワクチン、入国措置も五輪関係者だけが特別待遇を受けている」と怒りをあらわにした。
デモ隊は、バッハ会長が日本を訪問する今月17日にもデモを予告した。しかし、バッハ会長の来日は来月に延期されたという。毎日新聞は「背景には国民感情との隔たりがある」と報じた。同紙は東京オリンピック組織委員会関係者の話を引用し、緊急事態宣言下の来日は「国民が反発するだけ」だと報道した。さらに「開幕まで80日を切ってトップが来日できないのは異例の事態」だと付け加えた。
世論が冷え込んでいるにもかかわらず、IOCと日本政府が五輪を諦められないのは、費用と政治的打撃のためとみられる。IOCの収入の約70%はテレビなど放映権料が占めるが、保険に加入したとしても、中止となれば打撃が大きいという。日本もこれまで投入した金額だけで1兆6440億円だが、競技場建設や人件費ですでに支出が終わった費用がほとんどだと毎日新聞は報じた。今年秋には自民党総裁選と衆議院選挙が予定されているため、新型コロナ対策の不備が原因で五輪が中止になった場合、菅義偉首相の政治的打撃が大きくなるというのが大方の見方だ。
菅首相は同日、衆院予算委員会で「国民の命と健康を守り、安全で安心な大会が実現できるよう全力を尽くすことが私の責務だ」と述べた。