「世界最高の選手たちと並ぶことはできませんが、国民の血に染まった国旗の下で行進はしません」
五輪は世界最大のスポーツ大会だ。スポーツ選手なら参加自体が栄光となる。しかし最近、東京五輪への参加を公に拒否した選手がいる。競泳のミャンマー代表のウィン・テット・ウー選手(26)だ。
ウィン・テット・ウー選手は4月10日、SNSを通じて「軍部と連携したミャンマーオリンピック委員会の五輪参加は殺人政権の合法性を認める結果を生む」という批判声明を発表し、7月に開かれる東京五輪への不参加を宣言した。ミャンマーでは、2月1日に起きた軍事クーデターから4月4日までに軍部によって殺された民間人が600人を超えたという。
これまで政治的問題により国家レベルで五輪への参加を拒否することはしばしばあった。しかし、選手個人が政治的理由で不参加を宣言したのは極めて異例のことだ。選手にとっては五輪放棄というのはそれだけ難しい決定だ。特にウィン・テット・ウー選手は2017年にオーストラリアのメルボルンに渡った後、血の滲むようなトレーニングの末、2019年にミャンマーの水泳選手として初めて五輪参加資格を得た。現在メルボルンに滞在し、先月30日に電子メールなどによるハンギョレのインタビューに応じたウィン・テット・ウー選手は「五輪精神を守るため、ミャンマーの五輪参加に反対する」と語った。
彼にとっても、五輪不参加の宣言は容易ではない決定だった。「五輪はすべての選手の夢」だからだ。しかしウィン・テット・ウー選手は「いつかは自ら偉大なことを成し遂げると信じていたミャンマーの人々が暗い未来に直面している。彼らと連帯するために、ミャンマーの人々が自由に夢を見ることができるようになるまで、喜んで私の夢をあきらめる」と堂々と述べた。
ウィン・テット・ウー選手は、現在のミャンマーの状況で五輪に参加するのは、五輪精神に反することだと強調した。彼は軍部の銃弾に撃たれて死亡した19歳のテコンドー選手チエー・シン(Kyal Sin)さんの死に触れ、「五輪精神を完璧に具現化したチエー・シンさんのような若いスポーツ選手を軍人が殺害した。こうした状況で、軍部と連携したミャンマーオリンピック委員会が五輪の価値をどうして伝えることができるのか」と強く批判した。ミャンマー軍部はクーデターで権力を握った後、ミャンマーオリンピック委員会の委員長を交代させた。彼は「人類がともに記念すべき五輪に現在のミャンマーが参加するならば、これは世界史の悲劇として残るだろう」とも強く述べた。
現在、国際オリンピック委員会(IOC)は、五輪は政治的問題とは分離した大会だという立場だ。しかしウィン・テット・ウー選手は、ミャンマーの東京五輪参加が軍部の政治的宣伝に利用されると懸念を示した。「軍部は現在、大量虐殺の疑いが持たれている」とし「五輪は、ミャンマーの全てが実際には良くないにもかかわらず、全ては問題ないと世界に宣伝する手段になる」と憂慮した。
ウィン・テット・ウー選手にとって韓国はミャンマーが追いかけたい民主化の模範だった。彼は「韓国の人々が軍国主義と戦って勝利し、自由を得て繁栄を成し遂げたことを知っている。私たちも自由に向かってその道を歩んでいる。韓国の人々が引き続きミャンマーの国民と連帯してくれることを願っている」と切実に訴えた。