米国が前例のない「三重の危機」に陥っている。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡大による保健危機とこれにともなう経済危機に、人種差別に触発されたデモによる社会危機まで重なったからだ。1918年のスペイン風邪、1930年代の大恐慌、1968年の反人種差別蜂起など、20世紀以後の米国を強打した3つの危機が同時に押し寄せているわけだが、三重の危機に対処するリーダーシップさえ失われて「四重の危機」へと深刻化している。
まず、米国は現在、1918年のスペイン風邪に匹敵する保健危機に直面している。スペイン風邪当時の米国では、当時の人口1億500万人のうち28%が感染し、50万~85万人が死亡した。現在のCOVID-19は米国で183万人が感染、10万8000人が死亡した。5月31日の新規感染者数は2万350人だ。2カ月目に一日の感染者が2万人を超え、いまだに拡大している状況だ。
二つ目は、1930年の大恐慌に次ぐ経済危機だ。COVID-19の蔓延にともなう社会・経済活動の中断により、過去10週間で新規失業者が4000万人も発生した。4月時点での全労働力約1億5648万人の4分の1ほどだ。4月の失業率は3月より4.4%ポイント高い14.7%だ。
この失業の数値は失業手当の申請者を基に作成したものだ。フォーブスは、統計で捉えられなかったり、直近の失職の危機に直面していたり、正規職を探そうとしている臨時職など、限界の状況に追い込まれた労働者を合わせた「調整失業率」は27.6%に達するだろうと診断した。1930年代の大恐慌時の最大失業率は1933年の24.9%だ。現在の経済危機は大恐慌時の状況と違いはないという意味だ。
三つ目は、1968年のベトナム戦争と人種差別により触発された社会騒乱危機だ。先月25日、警察による連行の過程で首を押さえつけられて死亡した黒人のジョージ・フロイドさんの事件で、少なくとも米国全域の140都市でデモと暴動が起きた。主要都市で州防衛軍が投入され、通行禁止命令が実施された。1968年のマーティン・ルーサー・キング牧師暗殺で触発された人種暴動事態以後で最悪だ。COVID-19と経済危機により積もった不満がフロイド事件を契機に人種差別に対する行動として爆発したのだ。特に29日夜にはホワイトハウスに繋がる財務省を守るバリケードが突破され、大統領の警護を担当するシークレットサービスまで出動してデモ隊を直接封鎖した。
ワシントンポストのコラムニストのダン・バルツ(Dan Balz)は1日、「米国はこのような種類の混乱を同時に経験したことはない」と慨嘆した。さらに大きな問題は、前例のない三重の危機を前に米国のリーダーシップが消失したということだ。ドナルド・トランプ大統領はCOVID-19事態の序盤にその危険性を一蹴し、米国を世界最大の感染国に作り上げ、それにより大恐慌に匹敵する経済危機を引き起こすのに先導的な役割を果たした。
今回のフロイド事件でもトランプ大統領は特有の責任転嫁と分裂的な言辞で火に油を注いだ。彼はツイッターの投稿を通じて、フロイド事件が発生したミネアポリスの民主党市長を攻撃し▽ANTIFA(極左派)運動をテロ団体に指定すると発表し▽メディアが憎悪と無政府主義を広めると非難し▽自分が州防衛軍を出動させたことを自画自賛してジョー・バイデン民主党大統領候補を嘲笑した。
トランプ大統領は「民主党の市長と州知事は強硬になれ。あの連中はアナーキストだ。今すぐ我々の州防衛軍を呼べ。世界が見守っており、『居眠りジョー』をあざ笑っている。これが米国の望むことなのか? ちがう!」と書いた。
トランプ大統領は国家的な三重の危機の中でもスケープゴートを探して支持層を結集するいつもの話法を前面に出した。彼のホワイトハウスと選挙運動の一部の参謀は31日、今回の事態で大統領が国民をなだめる公式の演説を行わなければならないと圧迫したが不発に終わったと、米国メディアが伝えた。ワシントンポストは「米国は、トランプの大統領在職1227日の間で今日ほどリーダーシップを切実に求めたことはなかったように見えたが、トランプ大統領はそのようなことを提示する試みさえ行わなかった」と非難を超えたあきらめを示した。
フロイド事件に触発された全国的な騒乱は、米国の危機をより加速化させている。街頭に出た人々の波による社会的距離措置(ソーシャル・ディスタンシング)の消失とCOVID-19感染拡大は、経済的危機をさらに悪化させることが明らかだからだ。