北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)労働党委員長の異母兄弟の金正男(キム・ジョンナム)氏(46)の殺害事件は、容疑者が続々と逮捕されているにもかかわらず、むしろ事件の謎がますます深まっている状況だ。
現在まで捕まった3人の容疑者は、それぞれベトナム、インドネシア、マレーシア出身で、様々な国の国籍者たちが混ざっている。また、報道が分かれているが、今まで明らかになった犯行過程を見ると、インドネシア国籍のシティ・アイシャ容疑者(25)が金正男氏の注意を引く間、ベトナム国籍のドアン・ティ・フォン容疑者(29)が後から密かに近づいてスプレーをかけ、毒物がついたハンカチを金正男氏の顔にあてて10秒ほど押すなどの役割を分担して、奇襲的な犯行を行った。女2人が犯罪を犯す間、彼らに犯行を指示した20~50代の男4人は遠く離れた食堂でこの状況を見守っていた。犯行はわずか数秒で終わり、犯人たちは一瞬で様々なルートに分かれて、現場から姿を消した。
ここまでは、訓練を受けた“専門の工作員”の組織的犯行であるかのようにみえる。現地警察は15日「今回の事件が組織的に綿密に計画されたものとみられる」と発表した。
しかし、その後の状況については納得できない部分が多い。フオン容疑者は犯行の2日後の15日、犯行現場であるクアラルンプール国際空港第2庁舎にそのまま現れ、警察に逮捕された。まもなくして、ムハマド・ ファリド・ビン・ジャラルディン容疑者(26)と彼のガールフレンドであるアイシャ容疑者も逮捕された。フオン容疑者は警察で「4人の男から指示を受けた。それから一人取り残されており、彼らがどこに行ったのかはわからない」と供述した。彼女は「いたずらだと思った」と主張したが、11日から空港近くのホテルで泊まっており、1万リンギット(約25万円)の札束を持っていたことからすると、“請負(殺人)”である可能性が高いと見られる。
これらの点を総合すると、彼女が“4人の男”から金品を受け取って、“犯行の指示”を受け、自分が何をしているのかもまともに分からない状態で犯行に及んだ後、男たちからそのまま捨てられた可能性も排除できない。
結局、今回の事件は“男性容疑者ら”が鍵を握っていると言える。しかし、これまでの状況から、男性容疑者らも“工作員”ではなく、現地で雇われた“仲介役”である可能性が高いとみられる。これと関連してマレーシアの中国系メディア「東方日報」は現地消息筋を引用し、事件を捜査中の警察が暗殺に加担した6人を「特定国家の情報機関に所属した工作員」ではなく、すべて「殺人請負を受けた暗殺団」との暫定結論を下したと報じた。
この場合、彼らに犯行を指示した人物が誰かによって、今回の事件の性格が変わることになる。もしこの“指示者”が明らかにならない場合、事件は迷宮入りするかもしれない。