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統一言説、体制統合に埋没…人間中心に再構成しなければ

登録:2014-12-11 13:32 修正:2014-12-12 22:03
韓・中・日の4つの大学が合同で開いた世界統一人文学大会
東京の朝鮮大学で、11月29日開かれた第1回世界統一人文学大会でチョンジンア建国大学統一人文学研究団の教授が「経済成長第一主義と'働きながら戦う'国民の誕生」という主題発表をしている。在日朝鮮大学校提供 //ハンギョレ新聞社

 11月29日、東京都心の西にある小平市の(在日)朝鮮大学校講堂。北朝鮮と密接な関係を持っている海外の大学である朝鮮大学校講堂を埋め尽くした聴衆は、国際舞台に登場した新しい「統一パラダイム」に大きな関心を寄せて、報告に耳を傾けていた。

 この日の国際学術会議のタイトルは「2014統一人文学の世界フォーラム」。韓国の建国大学校統一人文学研究団と朝鮮大学の朝鮮問題研究センター、中国延邊(ヨンビョン)大学の民族研究所、日本立命館大学のコリア研究センターの4つの大学の研究所が「統一人文学」という概念の基で開いた「第1回世界学術大会」だ。 「東北アジアにおける私たちの民族アイデンティティの継承と変容」をテーマに開かれたこの日の学会には、日本各地から200人を超える聴衆が集まった。これまでの政治、軍事、経済問題などを中心とした統一言説とは一線を画し、人文学的視点から統一問題を考える斬新さが学者と市民から大きな関心を集めたのである。

統一を主導した体制は、優越
そうでなければ劣等な存在
人間は同質化対象としてのみ見られ
中・日、海外同胞は第3者として疎外

 統一人文学の提唱者たちは、このような高い関心の背景には「既存の統一言説の限界」があると主張する。「既存の統一言説では『分断のために苦しんでいる人間』の問題がほとんど取り上げられていない」というのだ。

 私たちに馴染みのある統一言説は、資本主義式で統一するか否か、単一国家で統一するのか、それとも連邦を構成するのかなど、ほとんど体制や制度に関連するものである。これらの統一言説は、南北の政府など、それぞれ異なる体制や制度を基に対立する国家を統一の主体としているのがほとんどだ。その中で人間は統一後「異質性を克服し、同質化されるべき対象」として規定されるだけだ。

 この場合、統一を主導する体制側の住民は優れた存在として認識され、そうでない側の住民は劣った存在となる。劣った側は統一後優れた側の基準へと同質化されることを強いられる。統一人文学研究者たちは、このような構造を「大きな暴力」だと判断する。ドイツ統一の事例が示しているように、結局統一後も民族の和合は順調に進まない。

 これにより、敗者になることを避けようとする国家間の葛藤は激化する。競争と葛藤が激しくなると断絶が深まり、統一はかえって遅延する。その中で住民は、それぞれ「民族」共同体から異質化し断片的化する。民族の異質化が進むと、行為主体である国家間の断絶はさらに進む。国家はより一層攻撃的になり、再び民族の異質化が深化する。悪循環の連続である。

 「統一人文学」は、このような問題点を克服するために、「社会構造と体制よりもその中で住んでいる人間を中心に統一言説を再構成すべき」だと主張している。 2008年「統一人文学」概念を提唱したキム・ソンミン建国大統一人文学研究団長は「統一人文学は、一言で言うと、政治·経済的なシステム統合を追求する社会科学的な統一言説を超えて価値や情緒、生活上の共通性を創出する、統一に関する人文学的考察」だと言う。

 キム団長は、現在南北の住民と海外同胞たちが「ホモ・サケル」となっているところに注目する。ホモ・サケルはイタリアの哲学者ジョルジョ·アガンベンが提示した概念で、すべての権利を剥奪された「裸の命」を意味する。分断が続いて「人間が排除された統一言説」が主流となり、私たち民族の大半が「この社会にいるが、この社会の外にいる人」になってしまったのである。

 海外同胞たちを見てみよう。これまで南北政府は敵対的体制競争の中で彼らを「私たち」のカテゴリーの外に追い出し、第3者として疎外させてきた。その結果、在外同胞は、私たちの近現代史の中で、国が主権を失い、お互いが敵となって戦う痛みを経験する過程で、何の罪もなく捨てられ、忘れられた存在となった。70年近く続いた分断の中で胚胎され強化された異質性のせいで、世界各地に散らばった同胞だけでなく、朝鮮半島の住民までもが「皆が皆を疎外させてしまう状態になった」。

 キム・ソンミン団長は、「私たちは(疎外を克服できる)『新しい民族』に戻らなければならない」と主張する。キム団長は、「新しい民族」とは昔の「檀君(ダングン)民族」を意味するものではないと強調している。「民族のアイデンティティを一つの共通分母に収斂する地点で見つけるのではなく、南と北そしてコリアン・ディアスポラ(海外同胞コミュニティ)が直面しているユニークな文化の違いの接続と共鳴、連帯の地点から新しく見直すこと」と考えているからだ。

「南·北、800万海外同胞まで含み
お互いの文化の違いを理解し
新しい共通性を見つけた時、真の統合」
来年延邊辺で「第2回大会」を開くことに

 キム教授は、新しい共通性を見つけるための最も基本的な条件が「コミュニケーション」であり、「他者性の理解」だと主張する。キム教授は、コミュニケーションと他者性の理解を通じて、新しい共通性を発見していく過程は、「ホモ・サケル」化した私たちの民族を「治癒」するプロセスであり、そのような治癒を経てからこそ、真の「統合」が達成できるという。

 キム教授は、統一人文学概念の体系化のために2009年に人文韓国(HK)支援事業に選らばれたのをきっかけに、現在12人の教授陣を含む統一人文学の研究チームを率いている。これまで30回以上にわたる国内・国際シンポジウムと40回以上のコロキウム(会談会)を開き、約60種の研究書を出版してきた。今年9月からは「次世代の研究者を養成するため」、国内では初めて建国大学校大学院に統一人文学の修士および博士課程を開設して運営している。

 統一人文学の概念は、「第1回世界統一人文学大会」を一緒に主催した海外の大学にとってより切実なものだ。海外同胞が感じる疎外感とアイデンティティの危機が朝鮮半島に住んでいる南北の住民よりも深刻だからだ。

 2年前の2012年、建国大統一文学研究チームと一緒に国際シンポジウムを開催し、今回の世界大会の基盤を作った朝鮮大学校のジャン・ビョンテ学長は、統一人文学の概念が非常に 「実感的」だと評価した。ジャン学長は「在日同胞社会で現在の最大の問題は、民族主体性を失うことなく、どのように繋げていくか」だとし「このように一堂に会し、現実的な問題の解決策を議論することが非常に重要である」と評価した。

 カン・ソンウン朝鮮大学校副学長は、統一人文学の概念が6·15南北共同宣言と10·4南北共同宣言の精神とも一致すると強調した。カン副学長は「2000年6·15南北共同宣言が発表された際、実践委員会も一緒に設置された」とし、「そこには民衆も統一を主導するという精神が込められていた」と強調した。カン副学長は「統一人文学は、まさにその精神にぴったり」だとし「政府と対立するのではなく、政府と民間が一緒に統一への道を歩む6·15精神を実践するもの」だと付け加えた。カン副学長は、その一例として、6·15宣言以降、南北間の交流が数回にわたって一時的に断絶されたにもかかわらず、決して中断されなかったのは民間の交流があったからだと説明した。

 カン・ソンウン副学長は、世界統一人文学大会などを通じて他の地域にもそのようなトラウマがあるという事実を共有することも、在日同胞のトラウマを癒す出発点になり得ると強調した。カン副学長は「在日同胞の現状は、鋭く、深刻で痛ましい」とし、世界統一人文学大会などを通じ、「延邊同胞の生活を見て、胸が痛くなるのを感じる」と言う。カン副学長は「お互いの経験を分かち合い、一緒に涙を流す過程が治癒の過程だと思う」と付け加えた。

 ホ・ミョンチョル延邊大学民族学研究所長は、統一人文学が800万海外同胞をも統一の主体として想定している点が、海外同胞から歓迎される要因だと指摘した。ホ所長は「海外同胞たちまで含めて民族の新しい共通性を見つけると、共通性に対する認識が深まり、違いに対する寛容も広がる」と診断した。ホ所長はそのような寛容の拡大が民族を構成している人々を疎外する分断トラウマを癒す重要な要素だと強調した。

 立命館大学コリア研究センター勝村誠センター長も、人文学の分断トラウマ治癒の可能性が重要であると判断し、第1回世界統一文学大会に参加することを決めたと話した。立命館大学がある京都地域は、在日同胞の主要な集団居住地の一つだ。これにより、立命館大学コリア研究センターは、韓国民主化運動史、韓国近現代史、植民地時代の歴史と一緒に、在日同胞の人権問題を主な研究課題として取り上げてきた。分断トラウマの癒しのも在日同胞の人権問題の重要な部分だ。勝村センター長は「人文学を通じて分断トラウマを治療しようというところに大きく共感した」と言う。

 これらの主催団体は、東京で開かれた第1回世界統一人文学大会をきっかけにして、今後統一文学大会をさらに発展させていくことに同意した。来年には延邊で第2回大会を開催し、朝鮮大学校が創立60周年を迎える2016年には再び日本の東京で第3回大会を開く予定だ。その後、2018年には舞台を韓国に移す計画だ。

参加機関も引き続き増やしていく計画である。現在、4つの大学のほか、海外同胞が多く住んでいる米国とロシア側の大学も主催団体に加える予定だ。それに北朝鮮の参加も持続的に打診する計画だ。

 キム・ソンミン団長は統一文学大会を通じて分断のハビトゥスを克服する方策を提示して分断トラウマを癒していけば、いつか「世界に向けた平和提案も可能だろう」と予想した。 「これまでの朝鮮半島は苦難の歴史に翻弄された葛藤と緊張の地であったが、統一時代の朝鮮半島はコミュニケーション、ヒーリング、統合の価値が世界史的に実現されている基盤になるだろう」と強調する。

 「統一人文学」を通じて私たちの民族が分断の傷を負った民族から、世界的な平和言説を提示する民族に変身していく日が来ることを期待する。

東京/キム・ボグン平和問題研究所長(お問い合わせ japan@hani.co.kr )

韓国語原文入力:2014/12/08 20:43

https://www.hani.co.kr/arti/politics/defense/668120.html  訳H.J(4256字)

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