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[記者手帳]「世界最大のFTA」RCEPは中国が交渉を主導?…事実と異なる

登録:2020-11-17 06:48 修正:2020-11-17 07:35
「中国主導」を前面に出し、「米中巨大FTA対決」の構図だと分析されるが、 
大統領府・政府「交渉の妥結を主導してきたのは、ASEANと韓国」
韓国など15カ国による「世界最大のFTA」であるRCEPの協定署名=文在寅大統領が15日、大統領府で開かれた世界最大規模の自由貿易協定(FTA)である「東アジア地域包括的経済連携(RCEP)」の協定文書の署名式に参加し、署名を終えたユ・ミョンヒ通商交渉本部長と記念撮影をしている=2020.11.15/聯合ニュース

 韓国・中国・日本・ASEAN(東南アジア諸国連合)など15カ国が参加する世界最大の自由貿易協定(FTA)である東アジア地域包括的経済連携(RCEP)が15日、交渉開始から8年を経て最終妥結した中、「RCEPは中国が主導する協定」だという一部の通商専門家とメディアの報道は事実と異なるという指摘が出ている。一部では中国主導という点を前面に出し、「米中間のメガFTA対決」として今後の巨大貿易協定の構図を分析するが、大統領府と政府は「RCEP交渉を今回の妥結まで主導してきたのは、中国ではなく韓国とASEAN」だと説明する。

 過去8年間に進められたRCEPの交渉過程に市民社会側の専門家として直接参加してきたナム・ヒソプ弁理士(知識研究所「工房」所長)は16日、「RCEPが中国主導だという記事が多くあったが、私が知る限りでは中国が交渉を主導したことはない。主導したと言うためには、議題を主導的に設定したり、異なる意見がある場合に調整する力になるべきだが、中国は全くそうではなかった。主導した国がなかったとみるか、ASEANが主導したとみるのが正しい」と述べた。

 政府の通商当局者も「今回のRCEP加盟国間の輸入関税の妥結内容は、ASEAN10カ国に共通して適用される関税譲許案が基本で、これを基本に韓国・中国・日本・オーストラリアなどの非ASEAN各国の間の関税譲許のスケジュールと幅について交渉が行われる過程を経た」とし、「ASEAN各国は『非ASEAN各国の間の開放の譲許水準が、ASEANに適用される開放水準よりさらに優待してはならない』と要求し貫徹させた」と述べた。ASEANそして韓国が主導したという意味だ。韓国政府も報道資料で「我々は交渉の仕上げにかなりの貢献をした。直近の交渉の詰めの段階では、非ASEAN国家(韓国・中国・日本・オーストラリアなど)の間の利害を調整する役割を長期間果たし、原産地などの主要な問題で合意することに積極的に貢献し、主要なASEANの国々と常に水面下で接触しながら、交渉が難局に直面するたびに交渉の進展を促した」と明らかにした。

 RCEP交渉の局面で中国が主導しなかったという事実と状況は、様々な側面に現れた。政府当局者は、「関税譲許(縮小・撤廃)の場合、中国は、今回の交渉過程でASEAN各国が要求したものより低い水準の市場開放と自由化を望んだ」とし、「韓中日3国の間の個別国家間の関税譲許水準も、協定の出発時からさほど開放の水準を高めず、80%台でひとまず妥結しようという方向に中国も立場を決めた」と述べた。一部では、米国のジョー・バイデン次期大統領が、日本が主導する環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定(CPTPP、11カ国)に再び参加する可能性が高く、そのような場合、米国が主導する巨大CPTPP貿易協定に立ち向かうため、中国が今回のRCEPの妥結を主導したと評価している。しかし、実際には、中国はRCEP協定の影響力を左右する市場開放の水準をむしろ低めたという意味だ。

 昨年、RCEP交渉への不参加を宣言し、今回の妥結・署名からひとまず抜けたインドをみても、「中国のRCEP主導」は説得力が弱い。交渉開始後8年も遅々として進まない状態が続いていたのも、インドがまるで「『RCEPトラック』の後方に繋がれた20フィートの重い大型コンテナ」のような存在だったからだ。インドは市場開放により、中国産の安価な工業製品やオーストラリア産の農産物が自国の市場になだれ込むと憂慮し、妥結を長くためらってきた。このように「中国主導のRCEP」に対する懸念が強いインドを協定に再び引き入れるため、中国は交渉過程で後ろに退いている状態だった。他のRCEP加盟国も、中国が先頭に立たず後方で消極的に取り組んでいることを望んでいたことが知られている。

 RCEP地域ブロックは、貿易・人口、総生産の規模で世界最大であることは正しいが、実際のRCEPの市場開放化の水準は、他の巨大地域貿易協定に比べ低い方だ。CPTPPは、サービス・労働・知識財産権・競争・投資政策を含む極めて包括的な範囲を扱うのに対し、RCEPは、主に協定参加国の漸進的な工業製品の関税縮小と原産地規定の統合に焦点を合わせている。開放の水準だけをみると、実際の内容はさほど野心に満ちた協定ではないこともありうるという意味だ。中国はRCEPを通じ、自国の商品をさらに多く輸出しようとする目的よりは、21世紀の陸上・海上シルクロード経済ベルトと呼ばれる「一帯一路」をASEANに拡張しようとした。RCEPは関税の撤廃・縮小を目標とする貿易協定だが、中国は、関税よりも一帯一路に目的を置いていたので、RCEPの交渉・妥結の過程で主導者の役割を果たさず、また、果たせられなかったということだ。

チョ・ゲワン記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/economy/marketing/970126.html韓国語原文入力:2020-11-16 22:01
訳M.S

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