朴槿恵前大統領、企画研究水準の事業を急きょ前倒し
技術レベルの評価・現場の意見の集約もなしに
“非現実的な目標”一方的に設定、推進
限界にぶつかり基本設計も終わらず
研究員ら「設計見直しの機会も逃す」
「550キロ」軌道衛星重量もたびたび超過
燃料量の問題でも、すでにタンクを製作
“軌跡変更の代案”、NASAの協力が不可欠だが
政府・航宇研のその場しのぎが危機を大きくした
事業本格化から4年たってもまだ基本設計すら終わっていない月軌道衛星(オービター)事業が、今度は主要事業パートナーである米航空宇宙局(NASA)の反対にぶつかり漂流することになったのは、事業推進過程で見せた政府と韓国航空宇宙研究院の一方的な態度が主な原因と指摘されている。国内の技術水準に対する客観的な評価や研究現場の十分な意見収集なしに主要目標を設定し、問題が起これば計画全般を見直す代わりに、その場しのぎの処方で対応したため、状況をさらにこじらせたという批判だ。
月軌道衛星事業は当初、盧武鉉(ノ・ムヒョン)政権(打ち上げ時期2020年)の時に始まり、李明博(イ・ミョンバク)政権(同2023年)までは遠い未来を見据えた企画研究の水準だった。ところが、2012年12月の大統領選候補テレビ討論会で「2020年、月に太極旗がはためくだろう」と宣言した朴槿恵(パク・クネ)大統領が当選し、状況が変わった。就任3カ月後の2013年5月、月軌道衛星事業が国政課題に選定され、開発期間が3年(2015~2017年)と大幅に前倒しされるなど、非現実的な事業目標が設定された。事業推進過程をよく知る韓国航空宇宙研究院(航宇研)の高位関係者のA氏は、ハンギョレ記者の電話取材に対し「地球を周回する人工衛星も開発期間は4~5年くらいなのに、月周辺を回る衛星を3年で開発するというのは荒唐無稽な発想だった」とし、「最初のボタンから掛け違っていた」と指摘した。
その後、主な事業内容は現場で事業を実行する研究員たちの判断や韓国の技術レベルとは関係なく決定され、変更された。2014年9月には(1)4つの搭載体(カメラなど各種の月探査装備)を積んだ(2)総重量550キログラムの軌道衛星を(3)月高度100キロメートルで(4)円軌道で(5)1年間運用するという内容で、企画財政部の予備妥当性調査を通過した。2016年1月には搭載体の数を4つから6つに増やした「月探査基本計画」が国家宇宙委員会を通過したのに続き、12月には「1年間、円軌道」を前提に、航宇研とNASAが協力協定を締結した。NASAは深宇宙通信などを提供し、韓国はNASAのカメラ(シャドーカム)を軌道衛星に追加搭載するという内容だ。
現場の意見を反映していない事業内容の変更について、航宇研の月探査事業団所属の研究チームは初めから「非現実的」だという意見を出していた。B研究員は「そもそも各種の部品や装備、搭載体数、必要燃料量などを計算して軌道衛星の目標重量などを導き出したものではなかった」と批判した。「(月軌道衛星事業の終了後)第2段階の月着陸船に使う韓国型ロケットは最大550キロまで月に送ることができるので、第1段階である軌道衛星の重量も(米国のロケットを使うにもかかわらず)550キロに合わせろというのが全て」ということだ。軌道衛星の設計重量は、2018年9月に610キロ、2019年3月に638~662キロ、最近は678キロと一度も550キロを下回らず、逆に増える一方だった。増えた重量で1年間の任務を終えるには、軌道衛星の月の周回軌道を円形から楕円形に変えるしかないというのが、9月に科学技術情報通信部が発表した内容だ。
航宇研内部の専門家らで構成する「事業管理委員会」は、3月に出した独自の検討報告書で、重量制限の解除は避けられないと指摘しながら、重量増加による燃料不足問題を解決する8つの理論的な代案(燃料タンクの拡大、軌道変更、任務期間の短縮、月まで行く経路(軌跡)変更など)を選び、それぞれの長所と短所を分析した。ここで管理委は、軌道変更と任務期間の短縮には「NASAの同意が必要だ」という点を強調した。しかし、政府と航宇研は9月にNASAと合意していない軌道変更(高度100キロメートル×300キロメートルの楕円軌道)案を発表し、結局NASAの反対にぶつかった。イ・チョルヒ議員は、「航宇研と科技情通部が毎回目の前の責任を回避することばかりに汲々として、問題を大きくした」と指摘した。
B研究員は「(政権交代後)各種の問題が十分露わになったにもかかわらず、2017年8月に国家宇宙委員会が打ち上げ時期(2018年→2020年)だけ延期して他の条件は維持し、設計全般を再検討する機会を逃したのが一番痛い」とし、「科技情通部が9月に重量制限解除(最大678キロ)も発表したが、すでに燃料タンクが製作されたので燃料が不足するのは同じだ。これを解決する軌跡変更案は国内の独自技術では難しく、従来のNASAとの協約の範囲を超えて支援を受けることも難しい状況」だと述べた。