サムスン電子のイ・ジェヨン副会長が、社内登記取締役になってから3年で取締役職を退く。国民年金が3月に故チョ・ヤンホ韓進会長(当時)の大韓航空社内取締役再任、チェ・テウォンSK会長のSK社内取締役再任に反対した“前例”が影響を及ぼしたものとみられる。イ副会長は「責任経営」の象徴である登記取締役を退きながらも、経営行動はさらに活発に行うという矛盾した姿を見せている。
6日の財界の説明を総合すると、サムスン電子はイ副会長の社内取締役任期が終了する26日以内に取締役会や臨時株主総会を開催しない。取締役の再任は取締役会と株主総会を通さなければならない。イ副会長が3年任期の社内取締役を再任せず辞めるという意味だ。イ副会長は、副会長などの職責があるだけで経営に対する法的責任を負う登記取締役は受け持っていないことに対する批判が続いた中、2016年10月に初めて取締役に名前を記載した。2001年に常務補として初めて役職に上がってから15年たってのことだ。
イ副会長の再任放棄に決定的な影響を及ぼしたのは、主要企業らの大株主である国民年金の“存在感”のためと解釈される。国民年金は3月にチェ・テウォンSK会長のSK(株)社内取締役再任について「企業価値の毀損ないし株主の権益を侵害の履歴が適用されると判断する」とし、反対意見を出した。会社資金横領などで有罪が確定された履歴などが反映された結果だった。国民年金は同月、やはり横領などで裁判中だったチョ・ヤンホ韓進会長(当時)に対して「取締役再任反対」意見を出し、積極的な株主権の行使に出た。チェ会長の再任就任の件は、国民年金の反対にもかかわらず結局通過したが、チョ会長の場合「再任否決」につながった。
国民年金のサムスン電子の保有持分率は9.97%だ。筆頭株主のイ・ゴンヒ会長と特殊関係者の持分率が21.24%にのぼるため、国民年金がイ副会長の再任に反対しても結果は予断できない。しかし、社会的な議論になることだけでもイ副会長にとっては負担になるだろうというのが大方の予想だ。最高裁判所が8月29日、二審と異なりイ副会長の違法経営権継承の疑いを有罪と認めて、事件をソウル高裁に差し戻し、今後イ副会長の実刑の可能性が高くなった状況だ。ここにちょうど、イ副会長の差戻し審の裁判が再任の時期の今月25日に開始される点も、世論の流れからすれば負担として作用したものとみられる。検察がサムスンバイオロジックスの会計詐欺の件と関連して、最近サムスン系列会社に全面的な強制捜索を行っており、捜査のスピードを上げている点も同じだ。
登記取締役は退いたが、イ副会長の「経営行動」はさらに活発になるものと予想される。最高裁の判決直前、日本の輸出規制強化とあいまって、いわゆる「現場経営」を拡大して広報し、存在感の強化に乗り出したイ副会長は、最高裁の判決から2週間ほどたった先月15日、サムスン物産のサウジアラビアの建設現場を訪れるなど、行動の幅を広げている。イ副会長が建設会社の国外現場を訪れたのは初めてだった。今月10日には忠清南道牙山(アサン)のサムスンディスプレイ湯井(タンジョン)事業場を訪れ、大規模投資案を直接発表する計画だ。最高裁で経営権継承を賄賂の見返りとして認めたことで「実刑」の危機がいつになく膨らんでいるなか、イ副会長が経済危機の中で「役割論」をさらに強調するという予想が出ていたが、これに合致する行動だ。
サムスン電子側も「登記取締役を退いても副会長として今の経営活動は続けていくだろう」とし、「大きな変化はなさそうだ」と明らかにした。
ただ、今後イ副会長に対する判決が最高裁の趣旨どおり確定した場合、「副会長職」を失う可能性もある。「特定経済犯罪加重処罰などに関する法律」は、横領など経済事犯に対し法務部長官が解任を要求するよう規定しているためだ。該当する条項が事実上は死文化したなかで、イ副会長が「解任要求権」発動の「第1号オーナー」になるかに注目が集まっている。