#1.生物浄化技術専門会社のBJCは、自動車の塗装工程で発生する猛毒性有機化合物と悪臭を浄化する微生物製剤を開発し、2004年から現代自動車蔚山(ウルサン)工場に供給してきた。その後2015年5月に、現代自動車は一方的に納入中止を通告した。現代自動車は「慶北大学に産学協力プロジェクトを任せて新技術を開発し、他の協力会社に委託した」と明らかにしたが、BJCは技術盗用だとして訴訟を起こした。
チェ・ヨンソルBJC社長(59)は「現代自動車に提供した各種技術資料と現代自動車が無断窃取した微生物6本などを慶北大学課題報告書でそっくり利用した証拠を確保した。15年間努力したわが社の研究開発成果を現代自動車と慶北大学は僅か5カ月であらゆる巧妙な手口で盗み取り、独自の技術に変えてしまった」と、無念さを訴えた。中小企業の技術紛争調停仲裁委員会は、BJCの仲裁要請に対し昨年8月、現代自動車に3億ウォン(約2970万円)相当の賠償判決を下したが、現代自動車は拒否した。BJCは、現代自動車の技術乗っ取りで今までに微生物剤の売上だけで約22億ウォン減り、今年6月には現代自動車が他の化学製品の納品契約まで解約したため、倒産の危機に立たされている。BJCの技術乗っ取りの主張について、現代自動車側は「BJCが微生物剤を使用した浄化処理の過程で発生する悪臭解消の要求を満たせなかったため、何度もの協議の末に契約を解除した。受け取った資料も重要な技術情報ではなく製品の使用説明書のような単純なものであり、問題にならない」と反論した。
#2.大邱(テグ)のSJイノテックは、太陽電池の金属被覆製造システム(ソーラウェハ・スクリーンプリンターシステム)を国内で初めて開発した強小企業だ。同社のチョン・ヒョンチャン代表(54)は挑戦的な研究開発投資と太陽光装備産業の国産化に貢献した功労で、2002年に雇用労働部から「技能韓国人」に選定された。彼は今、技術開発努力よりも(株)ハンファで使用している太陽光装備の技術の内訳追跡に没頭している。ハンファがSJイノテックの核心技術を奪って製作した複製装備を使用しているものと疑っているからだ。
SJイノテックは2011年8月、ハンファと太陽光設備の製造委託契約を結んだ。実際、一部の試験装備を入庫させたが、2014年からハンファ側は、出力向上を名分に実際の装備納品は先送りにして、核心技術の設計図面と詳細部品の図面、試運転性能評価資料だけを要求した。チョン・ヒョンチャン代表は「ハンファの要求に合わせて装備の開発に専念していたが、2015年末に急に契約解除を通報された。最初の契約による800億ウォン台の期待売上もすべて水の泡となった」と悔しがった。チョン代表はSJイノテックの特許技術を適用した装備をハンファの機械事業部門で製作し、ハンファキューセルなど系列会社に納品したという事実を偶然知った後、公正取引委員会に届出をしたが無駄だった。ハンファの技術流用の有無を確認する方法がないというのが公取委の答えだった。結局、昨年9月に大邱地方警察庁にハンファを告訴し、調査結果を待っているところだ。ハンファ側は「SJイノテックがいくつかの技術資料を渡したことは事実だ」としながらも、「契約による通常的要求資料であり、系列会社に設置された装備がその会社の技術に依存したものでもない」と釈明した。
現代自動車とハンファの中小企業技術奪取疑惑は、「長期未解決事件」として残る可能性が大きい。行政処分や処罰が行われるためには、被害を主張する側が確実な証拠を提示しなければならない。檀国大学のソン・スンウ教授(法学)は「技術奪取行為は典型的な『暗数犯罪』(捜査機関が認知できなかったり容疑者の身元把握などが解決されず、公式統計に集計されない犯罪)なので、加害企業が容疑資料を隠せば捜査機関でさえ犯罪事実を認知することが容易ではない。ましてや、人材と資金が少ない中小企業が優越的地位にある大企業の報復を甘受して証拠資料を確保することはさらに難しい」と話した。
民事訴訟を通じた被害救済も簡単ではない。下請法の改正で2013年から「3倍の懲罰的損害賠償制」が導入されたが、これまで関連する訴訟で中小企業が勝訴した事例はただの一件もない。また、普通3審まで2~3年かかる民事事件の処理期間を考慮すると、損害賠償訴訟で対応するのは中小企業には考えることもできない手続きだ。特許弁護士会のソン・ボイン弁護士は「技術奪取に対する被害企業の立証責任の負担を大幅に緩和するなり、行政的支援制度を強化しなければ、懲罰的損害賠償制は中小企業にとって被害救済装置としての実効性がほとんどない」とし、法と制度の改善の必要性を強調した。
大企業との取引で技術流出による中小企業の被害は、ますます複雑になっている。中小ベンチャー企業部が共に民主党のオ・キグ議員に提出した国政監査資料によると、技術流出被害を受けた中小企業1社の平均被害金額は2012年の15億7000万ウォン(約1億5560万円)から2013年には16億9000万ウォン(1億6750万円)、2014年には24億9000万ウォン(2億6840万円)に増加したが、2015年には13億7000万ウォン(1億3580万円)に減少した。しかし、昨年は18億9000万ウォン(1億8740万円)と再び増加傾向に転じた。中小企業の被害の経験比率も、2014~2015年は3.3%に止まったが、昨年は3.5%に上がった。
大手企業の中小企業技術奪取は単純に該当企業の被害にとどまるのではなく、国家的被害につながる。大・中小企業の共生の基盤を崩し、企業全体の技術開発の動機と革新力量を落とす。政府は9月初め、党政協議を通じて、大手企業の技術奪取行為を根絶するとして総合対策を打ち出した。主要業種に対する公取委の先制的職権調査などが対策の柱だ。だが、中小企業業界や専門家は政府の対策の効果に依然として疑問を持っている。中小企業の被害に対する政府レベルの調査と予防活動を強化して被害が確認される場合、迅速な救済が行われるよう法改正が切実だと口をそろえている。
一方、共に民主党乙支路委員会と経済民主化ネットワーク、参与連帯、民主化のための弁護士会は16日午前、国会政論館で技術奪取の被害を受けた企業の代表らが出席した中で、根絶対策と制度改善案を求める共同記者会見を開く予定だ。