史上初の「大統領候補の強制交代」騒ぎを経た与党「国民の力」のキム・ムンス候補は、公式の選挙運動初日の12日、「大統領選挙もダイナミックだ」と述べつつ、勝利に自信を示した。しかし12・3非常戒厳と尹錫悦(ユン・ソクヨル)前大統領の弾劾に反対したことに対する明確な謝罪、尹前大統領との絶縁なくして、いかなるメッセージも説得力を持ちえないということをキム候補は知るべきだ。
キム候補が紆余曲折の末に与党の大統領候補になったのは、キム候補に正義と競争力があるからではなく、党指導部と親尹錫悦派勢力による無道な候補交代策動に対する党員の怒りと同情に支えられた結果だ。極右的イメージのキム候補では中道層への支持拡張が担保できないというのが、当初の世論調査で明らかになった党員たちの大方の判断だった。彼がハン・ドクス前首相との一本化を積極的に約束していなかったら予備選挙で勝てなかっただろう、という指摘も妥当だ。一本化の陣痛を経たからといって、キム候補と「国民の力」の根源的限界が克服されるわけではない。
キム候補はこのかん「12・3非常戒厳は違憲」だとしながらも、尹前大統領の弾劾には反対してきた。尹前大統領の離党問題にも「過ちを犯すと離党させて切り捨てるのは責任のない政治」だとして反対してきた。彼は候補に確定した後、党役員と選挙対策委員会の人選でも漢南洞(ハンナムドン)の大統領官邸前の弾劾反対集会の参加者を大勢重用するなど、「尹錫悦擁護」色を維持した。こうした中、尹前大統領は選挙運動開始の前日、フェイスブックへの投稿で、キム候補の支持を表明しつつ「団結」を強調した。ただでさえ尹前大統領の発言や姿の露出が国民の怒りを買っている現実にあっては、党内から「黙っていろ」という激高とともに離党要求が出てくるのは当然のことだ。ハン・ドンフン前代表は、戒厳と反弾(弾劾反対)についての謝罪、尹前大統領の離党を要求し、選対委への合流を拒否している。国民の常識に合う措置を拒否しているのだから、「反イ・ジェミョン連合」という虚像はとっくに崩壊し、党内「ワンチーム」すら組織できずにいるのだ。
キム候補はこの日夜の放送局「チャンネルA」のインタビューで、「戒厳によって苦しんでいる国民の皆さまに心より申し訳なく思う」と述べた。戒厳そのものではなく、国民の被害について謝罪の意を表明したもので、形式、内容ともに不十分だ。国民の前で礼をもって戒厳と弾劾反対について謝罪するとともに、尹前大統領を離党させて関係を断ち切らなければならない。それが党の刷新の出発点であり、国民に票を投じてほしいと語りかけるための最低限の条件だと言える。