ドナルド・トランプ米大統領が韓米自由貿易協定(FTA)の「破棄」の可能性にまで言及したことで、韓国の通商当局は韓米FTAが現在の体制で維持されることは困難になったものと見て、当惑感のなかで対応策づくりに入った。
マイク・ペンス副大統領とウィルバー・ロス商務長官ら米国政府最高位関係者らがこれまで韓米FTA再交渉を何度も口にしたが、「破棄」にまで言及したのは今回が初めてだ。韓米FTA協定文は、一方の当事国が他方の当事国に協定の破棄意思を書面で通知すれば、その日から180日後に破棄することができると規定している。トランプ米大統領の就任後、チュ・ヒョンファン産業通商資源部長官とウ・テヒ第2次官がワシントンを訪問し、米国側当局者と数回会ったが、韓米FTA破棄に関する話題を切り出した米当局者はいなかったと知られている。トランプのこの日の発言はそれだけ突出的だ。
韓国政府はしかし、米国が実際に協定の破棄を求めるよりは、ある程度「脅迫性」である可能性に重きを置いた。産業部高位関係者は「近いうちに再交渉に入る予定の北米自由貿易協定(NAFTA)においても、トランプ大統領がその前に『破棄』の脅しをかけたことがある」と話した。
これと関連して、ロス商務長官は24日(現地時間)「米国の鉄鋼・造船・自動車産業の保護」を主唱している。韓米FTA「破棄」の脅威を口実に韓国産の鉄鋼・造船・自動車製品の輸入を規制する実利を得ようという意図があるのではないかという解釈も出ている。ひいては、大多数の品目の関税率がほぼゼロになった韓米FTAが終了すると、両国の貿易は世界貿易機構(WTO)の最恵国待遇譲許関税率を適用されることになる。この関税率は韓国4.0~9.0%、米国1.5~4.0%(一部品目8%)だ。つまり米国により不利になるため、協定の破棄まで進む可能性は低いと政府は観測する。
韓国の通商当局はトランプ政権発足後、米国側に「韓米FTAは両国の利益のバランスを合わせており、互恵的な成果を出している」としながら説得作業を続けてきた。それでも今月に入って米最高位級関係者がFTAの改正を相次いで言及し、もう「論理的説得だけでは解決が難しい事案」という方向に旋回する様相だ。
特にトランプが昨年の大統領選候補時代に韓米FTAについて「災い」としたのに続き、今回は「おぞましい」(horrible)という修飾語を付けて、再び強く非難することによって、改正交渉に突入することになる場合はその時期も当初の予想よりはるかに早くなるという分析が出ている。これまで韓国は米国がまずNAFTA再交渉に力を入れ、続いて日米両者自由貿易協定交渉に出た後、韓米FTA再交渉が始まるものと予想してきた。
韓国の通商当局は内部的に再交渉の備えに入った模様だ。産業部の関係者は「韓国政府も(改正が必要な事項など)主張するものがある」とし、「米国が(改善を)要求しうるものと我々が必要な事項を争点として準備しているところだ」と話した。ただ、再交渉に入っても譲許関税率の原状復帰はほとんど難しいとみられる。ムン・ジョンチョル産業研究院研究委員は「世界貿易機構は、協定国間の関税率をさらに強化したり上げるのは許容しない『一方主義』をとる。米国が世界貿易機構の加盟国である以上、韓米FTA協定以前の水準に関税率を上げることは不可能だ」と話した。