労働や所得に関係なく支給案
アイディア段階を越え政治議題化
財源など現実の壁で反対77%
提案団体「投票は中間過程」
韓国でも福祉国家の枠組みを
「働かざる者、食うべからず」。かつて資本家に向けられたこのスローガンは、次第に福祉制度に頼り、それにただ乗りしようとする労働者を批判する右派の常套句になった。しかし、働きたくても仕事が見つからない現実は、安定した仕事を前提に設計された伝統的な福祉国家モデルの限界を露呈させた。であるなら所得水準や労働の有無とは関係なく、すべての社会構成員が最低限の文化的で社会的な暮らしを営むことは不可能なのだろうか。こうした発想から出発した「基本所得」(basic income)が世界で注目を集めている。
スイス国営放送のSRFは6日(現地時間)、基本所得の導入を盛り込んだ憲法改正案に対する国民投票の結果、賛成23%、反対76.9%で否決されたと伝えた。しかし、スイス国民の4人に1人が基本所得の導入に同意したという事実の持つ意味は小さくない。ヨーロッパの一角で2000年代初期から議論が始まった基本所得モデルが、主要な政治問題になりうる資格を得たことを意味するためだ。今回の国民投票を提案した「基本所得スイス」(BIS)共同代表のダニエル・ヘニー氏は、メディアとのインタビューで「今回通過するとは考えていなかった。今回の投票は中間過程だ」と語った。
今回の投票は2013年に「基本所得スイス」が約13万人の署名を集めて実現した。憲法に基本所得の概念を盛り込み、成人には月2500スイスフラン(約27万円)、未成年者には650スイスフラン(約7万円)を支給する構想だった。これと類似した実験は、世界各国で相前後して行われてきた。フィンランド政府は2017年から無作為に選ばれた約1万人の市民に基本所得を支給し、その追跡調査の結果により基本所得を全員に拡大する段階的政策実行案を確定している。オランダなどでも地方政府単位での基本所得モデル実験が続いている。世界の注目がスイスに集まった理由は、このような実験が国民投票という民主的意志決定過程を通じ、国家次元の政治的議題として現れた最初の事例だったためだ。
基本所得は、所得不平等の深化と成長潜在力の弱化という資本主義経済体制の限界と問題点を克服する新たな代案として注目されてきた。さらに自動化と人工知能が持たらす「雇用の急減」に対する恐怖も議論を加速化させた背景にある。英国労働党はこの日、スイスとよく似た基本所得構想を検討しているとし、その理由を、ロボットなど迫り来る職業や技術の変化から市民を保護するためと明らかにした。
韓国国内でも基本所得議論が次第に加速している。基本所得韓国ネットワーク(BIKN)は来月、全世界の基本所得支持者の集い、基本所得(地球)ネットワーク第16回大会をソウルで開催する予定だ。「批判と代案のための社会福祉学会」は、今月3日の学術大会で基本所得を包括する「社会手当」について議論した。社会手当とは、所得基準などに応じて差がある社会福祉サービスを、基礎年金や児童手当などの形で一定基準を備えるすべての社会構成員に普遍的に支給する方案だ。中央大のキム・ギョソン教授(社会福祉学)は「労働市場から疎外されている青年層、低賃金労働に苦しむ高齢層など、既存の選別的福祉制度の「死角地帯」が広いと評価される韓国社会で、基本所得の持つ意味は大きい」とし、「基本所得議論がアイディア段階から代案としての位置を獲得すべき時点」と話した。