原文入力:2011/07/15 20:26(2725字)
チョ・ヒョジェ 地図のない旅行
新しい極右派は徹底的に保守的な一部中産層のむずがゆい心情を‘人権’の言語を駆使して掻いてくれる。これらのメッセージの核心はイスラムに対する合理的批判と現実的解決法がヨーロッパのアイデンティティを守るために必要だということだ。この主張が "一理ある" という反応を得つつ主流社会への進入に成功したように見える。
ネクタイを締めたスーツ姿の紳士が物静かな語調で次のように話かけてきたとしよう。「私たちの町内の老人ホーム施設にもっと支援しなければなりません。庶民のための福祉ももっと増やさなくてはね。しかし、この頃は経済が難しいだけに私たち市民に優先的に恩恵が行くようにすべきではないでしょうか? ところで、そのことが容易ではありません。それで申し上げるんですが…外国人労働者に対して一言言わなければなりません。この土地に入ってきて暮らしていながら、子供たちをたくさん産んで福祉恩恵だけを享受し、私たちの若者たちの働き口をみな奪う人々のせいで私たちの経済がこのように難しいのではないでしょうか? 外国人の人権だけが人権でしょうかか? いったいこの国の主人は誰なんですか? 状態が良ければまだしも、最近の状況では本国に送りかえすことが究極的な解決法ではないでしょうか?」すぐにも乗りたくなるこういう論理がこの頃、ヨーロッパを席巻している。
いわゆる新極右派、すなわち‘New Far Right’の登場だ。以前の極右派とは全く違う。軍服のようなものを引っ掛けてチンピラのように群れをなして行き来したり、スキンヘッドで大衆を怖がらせた姿ではもうない。教育を受けた人の話法を駆使し相手を安心させ、その実、徹底的に保守的だが自らがネオナチのように無知な人間に思われることは嫌う一部中産層のむずがゆい心情を巧妙に掻いてくれる。新しい極右派の主張にある程度 "一理がある" と考える人々が増えている。これに伴い、極右派の長年の念願であった主流社会への進入がかなり成功したように見える。これらのメッセージの核心はイスラムに対する‘合理的’批判と‘現実的’解決法がヨーロッパのアイデンティティを守るために必要だということだ。
デンマーク国民の半分以上がイスラムが社会の調和を破壊していると信じている。旧東ドイツ地域住民の4分の3以上がイスラム宗教活動を制限しなければならないと考えている。英国人の半分がイスラムとテロリズムが同一と見ている。フランス国民の10人に4人は ムスリム住民たちがフランスのアイデンティティに脅威を与えると心配している。オーストリア国民の過半数は、イスラムが西欧式の生活様式を阻害しているということに同意する。こういう大衆的情緒を土台に、そして極右派の円熟した変身に力づけられ、これらの声がますます強く大きくなっている。
オランダのヘルト ウィルダースが率いる自由党が保守連合政府の一つの軸を担当しており、社会的進歩の代名詞だったスウェーデンでも極右政党であるスウェーデン民主党が2010年の総選挙で20議席を占める異変を産みもした。ノルウェーの反移民極右政党である進歩党は現在 議席数で二番目に大きな政党になっている。デンマークの人民党は2007年総選挙で14%の支持を受け、オーストリアの極右政党らは全て合わせて約30%の支持率だとし気炎を吐いている。フランスで元祖極右派だったジャンマリー ルペンの娘のマリーン ルペンが次期大統領職を狙っているということは良く知られた事実だ。ドイツの場合、新しい極右政党が出現してはいないものの世論調査によれば旧時代極右派のネオナチと執権保守党の間に存在する約15%程度の政治的空間が新しい極右派の主張に同調していると知られている。
新しい極右派は‘人権’の言語を駆使したりもする。スウェーデン民主党はスリの手首を切るような‘野蛮的’なイスラム文明を開明されたヨーロッパが容認して良いのかとして有権者の末梢的な正義感を刺激する。オランダの自由党ではムスリムをよくファシストと呼んだりする。こういう例だけ見ても人権を主張の有無が重要なのではなく、誰がどんな目的でどんな方式で人権を掲げるかが人権においてさらに重要な判断基準であることを知ることが出来る。
ヨーロッパの新しい極右派が主に移民問題を中心に形成されている現実に対し、私たちが注目しなければならない理由がある。ヨーロッパ各国は伝統的に米国やカナダのように初めから移住によって国民アイデンティティが作られたところではない後発移民国家たちだ。それだけに我が国と似ている点がある。比較的 同質的な先住民の存在、最近数十年間に移民者が突然増えたという点、移民者に対する市民の経験や制度的装置が不備な点、‘多文化’という用語を多く使うが、それが内面化されえない点など 多くの部分で似ている。
←チョ・ヒョジェ聖公会大学校教授
だが、ヨーロッパと韓国の間には違う点も多い。ヨーロッパの移住問題が自由主義社会の普遍的適用という側面で失敗したことから始まったとすれば、韓国の移住問題は最小限の人権尊重という側面ですら不十分なところから派生している。したがって脈絡や次元が大きく異なる問題として見なければならない。ヨーロッパの極右派が主張する内容が、私たちの感覚ではそれほど‘悪性’と聞こえないが、良識あるヨーロッパ人が現在の事態を憂慮するのはまさにこのような差異のためだ。また、ヨーロッパの場合、移住の波が経済地球化以前から始まっており市民権の範囲をどのように設定するかという問題を提起しているとすれば、我が国の場合は民主化と経済地球化傾向と移住の増加傾向がほぼ同じ時期に合わさったという特徴がある。韓国の移住問題は移住だけの独自の問題領域というよりは、韓半島全体状況そして現在進行中の政治、経済、社会民主化の課題内で共に扱わなければならないイシューと見ることが正しいようだ。我が国の極右的主張がまだ移住問題より主に私たちの現代史と韓半島平和定着を巡る問題領域から出ていることだけ見てもそれを知ることが出来る。状況をこのように大きな枠組みで見る時、移住労働者、脱北定着者、非正規職労働、長期的人材需給などを相互に関連された問題として通しで把握できる見識が出てくるはずだ。 聖公会大学校教授
原文: https://www.hani.co.kr/arti/society/rights/487661.html 訳J.S