脳の重さは大人の体重の2%に過ぎないが、消費するエネルギーは全体の20%を上回る。私たちの体と心を調節する中央司令塔として、それだけやることが多いからだ。エネルギーをたくさん使うと、老廃物もたくさん発生する。そのたびに体は脳脊髄液を使い自ら脳を掃除する。脳脊髄液は脳を取り囲んでいる澄んだ液体で、量は150ミリリットル程度。1分に約1滴の速度で1日に約500ミリリットルが生成され、3、4回新しいものに交換される。脳脊髄液の掃除機能が正常に働かないと、老廃物や毒性物質が蓄積され、認知症などの神経退行性脳疾患の発症リスクが高くなる。
コ・ギュヨン博士(KAIST医科学大学院特勲教授)率いる基礎科学研究院(IBS)の血管研究団が脳の清掃に関する研究で、相次いで注目すべき成果を出している。研究チームは特に今年、脳の掃除を促進できる画期的な方法まで発見し、国際学界の大きな注目を集めた。
脳脊髄液による脳の掃除には2つの経路がある。一つ目は、脳細胞に付着している老廃物を洗い流すことだ。主に睡眠中に行われる。寝ている間に細胞間の空間が広くなり、脳を取り囲んでいる脳脊髄液が脳組織の奥深くに入り、老廃物を取り除いた後、再び出てくる。これをグリンパティックシステム(glymphatic system)という。汚れたところに水をかけて汚染物質を洗い流すのに似ている。
洗い流した後は、老廃物を脳の外に排出する。血管とリンパ管が排出の通路だが、脳脊髄液は主にリンパ管を使う。この過程は主に昼間に行われる。心臓のようなポンプ機関がないリンパ管は、周辺の筋肉に助けられ老廃物を運ぶためだ。睡眠中は筋肉の助けを受けることができない。このようにして排出された老廃物はリンパ管を経て静脈に戻された後、肝臓で分解されたり腎臓を通じて体外に排出される。
このリンパ管が脳の老廃物排出の中心経路ということを明らかにしたのは、韓国の科学者たちだ。実際、科学者たちが中枢神経系にリンパ管があることを発見したのは、わずか10年前。それまで脳にはリンパ管がないというのが通念だった。ところが、2015年に米国バージニア大学の研究チームが脳膜で初めてリンパ管を発見し、リンパ管が脳脊髄液の排出通路である可能性が浮上し始めた。
■マウス・霊長類実験を通じて排出経路を相次いで確認
ちょうどその年に発足した基礎科学研究院の血管研究団もこれに注目した。最初の研究成果は2019年に出た。血管研究団は、マウスを用いた実験を通じて、脳の後方の脳脊髄液が頭蓋骨基底部のリンパ管を経て首の内側のリンパ節に排出されることを発見し、国際学術誌「ネイチャー」に発表した。老化が進むと、脳脊髄液の排出量も減るという事実も確認した。さらに2024年には脳の前方と中間部位の脳脊髄液が排出される経路を突き止めた。脳脊髄液が鼻咽頭(鼻の後ろの喉の穴)のリンパ管網に集まった後、首のリンパ節につながる経路だった。しかし、老化過程で鼻咽頭リンパ管が退化すれば排出量が減少する。ネイチャーはこの研究を表紙を飾る論文に選んだ。研究チームは、鼻咽頭リンパ管と首の内側のリンパ節をつなぐ首のリンパ管に薬物を注入すれば、脳脊髄液の排出量を増やすことができるということも発見した。しかし、このリンパ管は喉の奥深くにあり、実際にこの方法を使うのが難しいというデメリットがあった。
解決策を探していた研究チームは、ついに顔の皮膚に近いリンパ管を通る新しい排出通路を見つけ、2025年6月、ネイチャーに発表した。両目の周囲と鼻の両側、顎と首の間を流れるリンパ管から顎下腺リンパ節につながるこの排出通路は、マウスだけでなく霊長類からも確認された。これは人にも似たような排出経路があることを示唆する。
研究チームは、薬物や手術療法を使わなくても老廃物の排出効果が得られるかどうかを調べることにした。機械装置を利用してマウスの顔面部位のリンパ管を軽く刺激するマッサージ実験を行った。すると、驚くべきことに、脳脊髄液の排出がはるかに円滑になった。マウス実験で5分の刺激は2倍、20分の刺激は3倍に排出量が増える効果を出した。老いたマウスの場合、最大5倍近く増えた。研究者たちはサルからも排出量が増加する効果を確認した。
重要なのは刺激の強さだった。弱すぎてもだめだが、強すぎても効果がなかった。マウスで効果を発揮した刺激の強度は10〜20グラムの重さで押す水準だった。紙くず数枚を載せたぐらいの羽のような力だ。論文が発表されると、具体的な脳の掃除方法を尋ねる問い合わせが国内外から殺到した。
■上から下へ…化粧品を塗るように軽く
動物実験で確認された効果を人に応用するにはどうすればよいか。
コ団長は最近、韓国科学記者協会主催で開かれた研究成果説明会で、日常的にできる脳掃除の顔マッサージ法を紹介した。まず両手で顔を包む。それから、両目の周りと鼻の両側、あごと首の間を上から下方向に軽くマッサージする。
マウスより皮膚が厚い人にはどの程度の刺激が良いだろうか。マウス実験での10グラムの力は、人の場合、500ウォン玉を乗せる程度の力に例えることができる。コ団長は「顔にクリームを塗るように、そっと触るだけで良い」と語った。肌を押すのではなく、しわができないほど滑るようにマッサージする程度だ。一日の日課のように、朝昼晩に時々するのが良いという。
コ団長はしかし、必ずしもこのような方法だけに頼る必要はないと語った。顔面を刺激できるすべての筋肉の活動がリンパ管の老廃物排出に役立つという。例えば、食べ物を長く噛むこと、軽い運動で鼻呼吸量を増やすこと、人々と会話を交わすこと、よく笑うことなど活発な日常活動自体が顔の皮膚に近いリンパ管を刺激することができる。
研究チームは現在、研究成果をもとに脳の老廃物の掃除を促進できる顔面マッサージ機を開発している。開発が完了すれば、神経退行性疾患の補助治療器具として使えるかどうかを調べる臨床試験も行う計画だ。
*論文情報
Increased CSF drainage by non-invasive manipulation of cervical lymphatics. Nature(2025).
https://doi.org/10.1038/s41586-025-09052-5
Nasopharyngeal lymphatic plexus is a hub for cerebrospinal fluid drainage. Nature(2024).
https://doi.org/10.1038/s41586-023-06899-4
Meningeal lymphatic vessels at the skull base drain cerebrospinal fluid. Nature(2019).
https://doi.org/10.1038/s41586-019-1419-5
Structural and functional features of central nervous system lymphatic vessels. Nature(2015).
https://doi.org/10.1038/nature14432